福田総理とねじれ打開策
9月26日、福田康夫氏は総理大臣に就任する。総裁選は反小泉、反安倍、反麻生でまとまっていたが、内閣は小泉路線の支持者と反支持者が福田氏を支持する不安定で微妙な土台の上に乗って動き出した。頼みの綱は小泉路線の支持で得た衆議院の3分の2の議席だが、安倍内閣が惨敗した夏の参院選のツケは残ったままである。
首相が安倍晋三氏から福田康夫氏に変わっても、衆参のねじれ現象で生まれた与党と野党のデッドロック状態が解消されるわけではない。しかも与党が参議院で過半数をとらない限りこれは続く。
次回2010年の参院選で改選される議席数は121議席。与党の改選議席数は自民党46、公明党11の57議席で、対する民主党の改選議席は49議席である。与党が非改選議席と合わせ過半数となるのに必要な議席は76だが、民主党は62議席を獲得すれば単独で過半数になる。与党は、2001年の小泉内閣のもとで獲得した78議席を狙えないと過半数をとれない。次回参院選がだめなら2013年までねじれ現象は続くことになる。
一方、民主党は次回衆院選で第一党になれば政権政党となることができる状況だ。
見え始めた布石
9月26日、山崎拓元副総裁は千葉市の講演で基礎年金の国庫負担の財源について、「消費税で支える以外にないので、これは大連立以外ではできない。消費税を結節点として大連立もあり得る」と、民主党との連立の可能性を語る。10月18日、中曽根元首相は都内のホテルの講演で「ねじれ現象は少なくとも6年は続く。大連立こそが現状を打破する道だ。民主党は大連立に反対するが、何が国益かを話し合うことが必要だ」と自民党と民主党による大連立の実現を促す。さらに10月20日、新潟県湯沢町のホテルの講演で、「いずれ衆院解散、総選挙がある。その後は大連立をやるべきだ」とねじれ現象解消のための大連立の必要性を続けざまに強調した。党首会談前日の10月30日、森喜朗元首相は大阪市での講演で「日本の政治が変わるかもしれない」と語る。
しかし、サマワの陸上自衛隊の活動と比べ、重要だが地道な兵站活動はマスコミ受けしない。安倍首相が固執したテロ特措法とその論議は、期限が切れる前こそ政党間の駆け引きとして報道されたが、インド洋から補給艦「ときわ」と護衛艦「きりさめ」が帰還したあとはニュースとして登場することはほとんどなくなった。
福田首相の毒まんじゅう
10月29日、福田首相は国対委員長経由で「新テロ対策特別措置法案をはじめ、国益に関する事項で合意を得るべく話し合いたい」と申し入れ、大島理森自民党国対委員長、山岡賢次民主党国対委員長が30日午前に党首会談を2時間行うことで合意する。会談は、伊吹文明、鳩山由紀夫両幹事長と大島、山岡両国対委員長が同席し、その後両党首だけで会談する予定で決まった。当初、小沢党首は自民党との協議には原則応じず、国会で論戦する姿勢だったが、「首相からの申し出なので受けざるを得ない」と態度を変え党首会談が実現する。この会談のため、31日に予定されていた国会での党首討論は延期となった。
10月30日午前。約2時間20分間の党首会談が行われる。冒頭10分間は伊吹文明、鳩山由紀夫両幹事長と大島、山岡両国対委員長が同席。その後、党首2人きりで45分程度会談、最後に両幹事長を交えてこの日の会談内容を確認した。
会談後、小沢党首は記者団に「年金などいろんなことについて意見交換した。解散・総選挙の話はしていない」と説明し、福田首相は記者団に対し「民主党は協力政党だと信じている。そのことを小沢氏の全身から感じた」と期待感を表明した。
最後まで党首会談の内容について、議論されたこと、合意できたことは明らかにならなかったが、両氏とも会談の結果については満足しているように見えた。
霧に包まれる党首会談
会談の内容を報道しようとマスコミはやっ気になるが、会談を行った両氏からは「政治情勢など一般的なことの意見交換」「昔話も含めたいろんな話」など、いかにも「たいした内容ではない」といわんばかりの話しか得られない。周辺から情報を集めるしかない状態だが事情通を見極めることは難しく、取材を重ねても不正確で断片的な情報しか手に入らない。会談内容について、首相は11月1日に期限切れとなる給油活動継続の重要性を説き、新法案の今国会成立に協力を要請。これに対し、小沢党首は、一般論としての協力や良しとするが、特措法案については従来通り国連の活動の枠内でしか許されないと主張。さらに首相の、逆転国会運営のため与野党間や政府・野党間の協議機関の設置についても提案を、「原理原則があるので曲げることはできない」と拒否したと報道されたが、ニュースソースが当事者でないことは明らかで、依然、会談の内容は明らかにならない。
小沢党首は党役員会でも「新テロ法案をめぐって首相や政府与党に動揺がある」「大連立、解散総選挙、国会の会期延長など政治的話は一切なかった」と会談のあらましを説明する。しかし、自民、民主両党からは会談の目的について「45分も密室にいて世間話ではあるまい」「民主党を攻撃するための謀略か」といぶかしむ声がでて、衆院解散総選挙の時期の調整、大連立などの憶測が飛び交うこととなった。ある民主党幹部は「大連立が話題になるだけで民主党は打撃を受ける」と語り不快感を表明、別の民主党幹部は小沢党首は「大連立に向けた布石」は拒否すると語った。
福田首相も、公明党の太田昭宏代表に「解散についてはご心配なく」と伝えたが、大連立となれば存在が危うくなる公明党は密室での会談に不信感を拭えない。逆に連立相手の公明党より小沢党首との会談に重きを置いた動きをみて、何か大きな決定が行われる事態を予感させる結果となる。
しかし、福田首相が夜に記者団から「大連立も排除しないのか」と聞かれ、明確に否定せず返答をぼかしたことで大連立への可能性が信憑性を増す。
フィクサーの影、次第に
党首会談には自民、公明、民主党の与野党双方に警戒感や戸惑いがあった。30日朝に開かれた自公幹事長会談では、福田首相が剛腕小沢党首に引きずられる懸念が話題になった。同じ朝に開かれた臨時役員会では、伊吹文明幹事長が会談に至った経緯を説明し、小沢氏が特措法成立と引き換えに解散・総選挙を迫っても受けないこと、自民、民主両党の大連立を持ちかけられても乗らないことの2点について首相にクギを刺したことを明らかにする。さらに公明党の北側一雄幹事長にも「国益と特措法案に限って小沢氏と話す」と説明をする。民主党でも会談を取りまとめた本人の山岡国対委員長が、急な党首会談開催への戸惑いを語った。
31日昼、武部勤元幹事長は選挙塾「新しい風」の例会で党首会談に関し、「与野党共通の認識で政治運営がなされる可能性が出た。大連立も考えられる」と、自民、民主両党による大連立にもあり得るとの見方を示した。
一方、町村信孝官房長官は午前の定例会見で、党首会談を受けて自民党と民主党の「大連立」の思惑が取りざたされていることについて、大連立を行っているドイツとの選挙制度を指摘。政治構造、成り立ちが違う日本で「まさかの可能性」の大連立への思惑を牽制する。公明党の北側一雄幹事長も記者会見で、党首会談でも大連立の憶測を牽制した。
産経の31日付記事に、「大連立構想の旗振り役となったのは参院選後に読売新聞の渡辺恒雄・グループ本社代表取締役会長だ。自民、民主両党の幹部らに『自民、民主で大連立を組み、憲法や社会保障改革などを一気に進めた上で中選挙区制に戻すべきだ』と力説して回ったとされる。これと連動し、中川、山崎両氏のほか、古賀誠選対委員長、武部勤元幹事長、中曽根康弘元首相らも相次いで大連立構想に言及した。渡辺氏は福田政権樹立にも一役買っており、首相も『選択肢の一つ』と考えている節がある。」と読売新聞グループ本社代表取締役会長で主筆の渡辺恒雄氏が登場する。
「政局は風雲急を告げている。同じ考えの人がそれぞれ違う党にいる。ねじれをどう解消していくか。両党首が話をして、ねじれ解消につながっていくことを切に願う」と中川秀直元幹事長が講演で意味深長に語った言葉を捉えたのも産経だった。
そして11月2日。党首会談が再び開かれることになった。
.