2007年11月24日

踏んだり蹴ったりの安倍内閣

ボロボロの安倍内閣 --- 松岡農林水産相編

2007年は元旦から松岡農林水産相の秘書が、出資法違反容疑で福岡県警の家宅捜索を受けたエフ社の関連団体WBEFのNPO法人申請をめぐって、審査状況を内閣府に照会をしていたことが明らかになる。WBEFからパーティー券代100万円を受け取ったが政治資金報告書に記載していないことが発覚した2006年9月、松岡氏本人も事務所も「WBEFの関係者に接触したことはない」と説明していた。しかし1月5日、事務所がWBEFの依頼で内閣府に照会を行ったことを松岡氏自身が自ら認めた。
さらに1月10日、松岡農林水産相の家賃無料の議員宿舎を事務所として、資金管理団体が年間約2500万〜3300万円を事務所費を計上していた疑惑がでる。
続いて伊吹文部科学相の二つの政治団体も事務所経費の付け替えなどの「不適切な会計処理」が発覚、さらに1月27日、柳沢厚生労働相が「女性は子どもを産む機械」と発言し安倍内閣は対応に追われた。

松岡松岡農林水産相の事務所費問題は3月になっても消えず「ナントカ還元水」などでくすぶり続ける。さらに4月には、農林水産省所管の独立行政法人「緑資源機構」の林道整備をめぐる官製談合の渦中の企業や団体が、10年間にわたって松岡松岡農林水産相の資金管理団体に献金していたことが発覚する。
東京地検特捜部により「緑資源機構」の官製談合の捜査が進む5月28日、衆議院赤坂議員宿舎1102号室で、松岡利勝農林水産相は自殺した。

ボロボロの安倍内閣 --- 「宙に浮いた年金記録」編

4月3日、社保庁が「宙に浮いた年金記録5000万件」を認めた。消えた年金納付記録を昨年来追求し続けてきた民主党長妻昭議員の質問に応えたものである。
しかしその後も、社保庁、厚生労働省とも問題の対応を明確にせず、国民の不安と怒りは一気に増大する。多くの国民が自分の年金の納入状況を社会保険事務所で確認しようとしたため、社保事務所は対応に追われつづけ、テレビ、新聞も連日を報道を続けた。
しかし安倍首相は年金問題の重大さを認識せず、対応は後手にまわり火消しに追われることになる。

ボロボロの安倍内閣 --- 久間防衛相編

参院選の一ヶ月前の6月30日。久間章生防衛相が「原爆投下はしょうがなかった」と発言する。久間防衛相は、2006年12月参議院外交防衛委員会での「私でも沖縄を最初に占領」発言をはじめ、1月には米政府のイラク戦について大統領の開戦判断が間違いと批判、4月の長崎市長銃撃事件の際は「補充立候補する公職選挙法を見直し」と「補充がきかないと共産党の市長が誕生する」と発言したがいずれも安倍首相は容認していた。しかし、長崎の参院自民候補小嶺陣営では、久間防衛相と握手しているポスターを大わらわではがす騒ぎになり、党内でも厳しい意見が相次いだ。三人目の閣僚交代を躊躇する安倍首相だったが、ついに押さえきれず久間防衛相の更迭を決める。久間防衛相更迭と小池百合子新防衛相誕生の手際の良さとスマートさは小泉前首相のシナリオである。

ボロボロの安倍内閣 --- 赤城徳彦農水相編

この騒ぎがおさまらぬうちの7月7日、「政治とカネ」の松岡利勝農水相の後任の赤城徳彦農水相に、実家を後援会事務所にした事務所費問題が発覚する。しかし、だめ押しの「四人目の閣僚交代」を気にする安倍首相は更迭に踏み切れない。「法律にのっとって適切に報告している」などと容認する発言を繰り返し、「問題閣僚をかばっている」との批判を浴びる。
さらに10日後の7月17日、赤城農水相は顔に大きな絆創膏を張って登場し、「大したことはありません」とかたくなに理由を述べず、疑惑をますます呼び寄せる結果となった。ついで参院選2日前の7月27日、最悪のタイミングで赤城農水相後援会の郵便代の二重計上が発覚し、選挙直前に自民党への不信は最高潮に達する。しかし安倍首相は何も行動を起こそうとしなかった。

全敗王子 --- 安倍晋三

「年金問題」と相次ぐ「政治とカネ」の逆風のなかの7月29日。参院選で自民党は歴史的惨敗をする。中川幹事長、青木参院議員会長は即日辞任するが、安倍首相は「再チャレンジ」の続投宣言をする。これに対し自民党の派閥領袖から、支持する声が相次いで出る。自民党に潰すに潰せない大赤字会社と同じ内情がうかがえる。
しかし、31日午前の自民党総務会ではベテラン議員から公然と首相の責任を問う発言が相次ぎ、赤城農水相の辞任を要求される。初めからさして強力でなかった安倍首相の求心力は急激に消え始め、8月1日ついに安倍首相は赤城農水相を更迭した。

安倍内閣では、問題を起こした閣僚を官邸に呼んで注意しても官邸を無視するような行動が止まらない。外務省をコントロールできない田中眞紀子氏をすぐさま更迭し、田中氏が泣こうがわめこうが相手にしなかった小泉首相とは大違いで、「原爆投下しょうがない」で注意を受けた後「関係ない」と笑う久間防衛相、絆創膏を問い質されても「心配いりません」と繰り返すだけの赤城農水相など、緊張感のない、立ち往生常習の安倍内閣の足下をみすかした行動は、学級崩壊にも似ていた。

8月20日、「お友達」の塩崎官房長官が代表の自民党支部で、政治資金の私的流用を隠すため領収書を二重添付していたことが発覚する。これにより党内で批判の的だった塩崎官房長官が改造人事で閣内にとどまることは難しくなった。

そして内閣改造である。
インドなどの歴訪を終えて帰国した安倍首相は、25日夜から27日の内閣改造まで、改造人事と自民党役員人事のために与党幹部らと会わない意向を示した。しかしキングメーカーに執着する森元首相は党内実力者と密談を重ね人選を進める。一方、安倍首相が気にしたのは「脱小泉」「福田への流れ阻止」「反安倍連合の分断」と「政治とカネ」のスキャンダルだった。党役員人事は別として、閣僚候補の政治資金収支報告書を徹底的に調査し、安全が確認できた上での人事をすすめる。いきおい資金に困らず姑息な錬金術に頼らなくてすむ大物議員が選ばれることになった。そして8月27日、「着実に『美しい国づくり』に向けて政策実行する『政策実行内閣』」が誕生する。

第一次安倍内閣が「政治とカネ」で叩かれつづけ、「事務所費怖い」が染み付いた安倍首相は内閣改造後、政治とカネの問題について「閣僚は何か指摘されれば、説明をしてもらう。十分な説明ができなければ、去っていただく覚悟で閣僚になってもらう」と、打って変わる厳しい姿勢を見せる。
 しかし、閣僚候補らの「身体検査」を万全にして臨んだはずの改造内閣でも、「政治とカネ」でつまずく。
内閣改造から1週間後の9月3日、補助金の不正請求が明らかになり遠藤武彦農水相が辞任。坂本由紀子外務政務官も関連政治団体の経費の多重計上で辞任する。身辺調査を十分に行ったはずの閣僚人事で安倍首相の危機管理能力の不手際がさらに印象づけられる出来事になった。

[「続く]
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2007年11月19日

大連立を画策した筋書きとは

11月に突如駆け巡った大連立騒動だがこのシナリオは2ヶ月半前から書かれていた。

参院選でシナリオは加筆された

閣僚の政治団体の多額の事務所費問題、補助金の不正受給などの「政治とカネ」と相次ぐ失言で下降を続けた安倍内閣の支持率は、7月初旬の32%からさらに下がり選挙前の18日には支持率は27.9%、不支持率は51.7%になった。特に古くからの自民党の支持基盤である本州北部、四国、九州で支持率の低下が目立っていた。(読売新聞世論調査)
そして29日の参院選で、選挙前改選議席の134議席の与党は、自民党37議席(改選前64議席)、公明党9議席(改選前12議席)の105議席と惨敗する。
民主党は60議席(改選前32議席)を得て、結党以来最大の109議席となったのだ。

この選挙は今までの選挙戦術の転換を迫る新たな時代の到来を自民党に突きつけた。
比例区で農協が推す新人の山田俊男氏、歯科医師会の新人石井みどり氏、建設業界が推す佐藤信秋氏が当選したが、医師会に君臨し天皇・ケンカ太郎と言われた武見太郎の長男で前職の武見敬三氏、土地改良団体の組織票を固めようとした前職の段本幸男氏、薬剤師団体が推す前職の藤井基之氏、運輸団体が推す前職藤野公孝氏、看護団体の松原まなみ氏、建設族の元職上野公成氏、農協が推したもう1人の福島啓史郎氏、漁協の丸一芳訓氏が相ついで落選し、業界団体を背景にした旧来の集票システムの破綻を印象づけたのである。

比例区トップ当選の舛添要一氏も得票は470,571票と前回2001年の1,588,262票から激減、さらに岡山選挙区では参院幹事長だった片山虎之助が、民主党の新人姫井由美子氏に約48,000票の大差をつけられて落選し衝撃が走った。
2004年の参議院選の1人区では自民民主両党の戦いは互角だったが、今回自民は四国の4議席、東北1人区の4議席をすべて落とすなど 6勝23敗と大幅に後退し歴史的大敗となった。民主党は、17同県で40%を超える得票率を得て、いままで強かった都市部だけでなく地方でも着実に力をつけてきたことをうかがわせた。

当然ながら参院選の敗北で、党首の安倍首相の責任を問う声が出た。
首相は責任を認めたものの早々と続投を表明する。党内では公然と首相への辞任要求がでたが、安倍首相は30日には公明党の太田昭宏代表との与党党首会談で連立の維持を確認。さらに内閣改造、党役員人事の刷新を表明する。
さっそく、閣僚ゼロの谷垣派の谷垣禎一前財務相が、「党全体がバラバラではだめ。力を合わせていく態勢をどうつくるかだ」など、反安倍勢力は閣僚、党役員の要職入りを期待し退陣論は沈静化に向かった。

シナリオライターが自ら演出

そして8月16日。読売新聞の社説に「大連立 民主党も『政権責任』を分担せよ」が掲載された。(中川秀直公式Webサイトより)
社説の要旨は以下である。

 ・参院の与野党逆転で法案通過には民主党の賛成か衆院再可決しかない。
 ・自民は衆院再可決を簡単には使えない。
 ・自民の予算関連法案が成立しないと国民生活に重大な影響が出る。
 ・解散総選挙で自民が勝っても衆参のねじれは解消しない。
 ・自民が3年後に参院選でねじれを解消するのは難しい。6年後でも難しいだろう。
 ・ねじれがあれば国政は長期にわたり混迷する。
 ・混迷打破は参院の与党民主党に「政権責任」を分担してもらうしかない。
 ・民主は「大連立」政権に参加しろ。

 ・自民は政権参加を民社党に呼びかけろ。
 ・民社にとってもねじれ状態は負担である。
 ・政府与党に対決、揺さぶるだけでは政権担当能力を問われる。
 ・自民が提示する国益を考えれば妥協が必要な場合がでる。
 ・国益にとって必要な妥協をしないで国政が混乱すれば民主のせいだ。

 ・大連立すれば自民が考える社会保障制度の立て直しも少子化対策も進められる。
 ・それに必要な財源が消費税率の引き上げだ。
 ・自民民主が大連立すればそれができるようになる。

 ・自民と安全保障や外交などの主張の差があるなら政策協定すればいい。
 ・民主が政策協定するならほかの党も政権に参加させてやってもよい。

 ・テロ特措法の期限延長問題も国会でなく政権内部の協議でやればいい。
 ・ミサイル防衛、米軍再編問題も同じだ。
 ・外交、安保は両党に大きな差はない。
 ・社会保障政策も両党に大きな差はない。
 ・自民の税制抜本改革論議に民主が参加すれば消費税率引き上げも進めやすい。

 ・ドイツではキリスト教民主同盟と社会民主党の大連立ができた。
 ・大連立しても第2党の存在が薄くなるわけではない。だから民主の存在感は残る。
 ・大連立のおかげでメルケル政権は付加価値税(消費税)を3%アップして19%にできた。

 ・大連立して政権内部で議論が加熱するのは国会審議の停滞より効率的だ。
 ・秋の臨時国会でぶつかり合うより、早急に大連立しろ。

シナリオは役者に渡されていた

読売新聞の社説に応え、自民党の中川秀直幹事長が8月21日の記者会見で大連立に言及した。
時事通信が8月に行った世論調査「望む政権の形は」をもとに「、民意は、小沢氏の政権交代による非自民連立政権を望まず、自民中軸の政権を50・2%が望んでいるということである」とブログに書いたことを明らかにし、「よりよい日本をつくるための改革を考えて与野党が歩み寄ることが民意に応える道だ。謙虚に考えるべきだ」と、大連立への道をさし示したのだ。(産経)
また「読売以外のマスコミはどうか。これまでマスコミは大連立には否定的であったように思われる。マスコミの大局観が問われている。マスコミが動かなければ民主党も動かないだろう」と社説を援護し世論を盛り上げようとした。

民主党鳩山由紀夫幹事長は同日これに言及し「自民党が参院選で惨敗したから大連立だとの発想には傾かない。選挙で国民の期待をもらったが、『自民党と連立しろ』との発想ではない」と実現の可能性を否定した。

この前後、自民党幹部からは大連立に関する発言が相次いでいた。
山崎拓元副総裁(当時)は参院選前の7月24日、福岡の講演で憲法改正問題をめぐり「自民、民主で大連立を組む以外にない」と発言。武部勤前幹事長も8月23日、「日本がつぶれたらどうにもならない。最後は国家、国民が第一。そのためには、大連立だって結構だ」と都内の講演で語った。二階俊博総務会長(当時)も8月31日の報道各社のインタビューで「知恵のひとつに大連立構想はある。連立を組めれば組んでいきたい」と述べている。
9月7日には中曽根康弘元首相がTBS番組の収録で「(11月1日に期限切れの)テロ特措法は内閣の死命を制する重大問題。特措法で大連立すれば、民主党が将来政権をとるよいチャンスだ。党首会談をやり協力する癖をつけて成就させるべきだ」と語った。

一方、公明党の太田代表は8月24日、ラジオ番組で「「中選挙区制にすることが非常に大事なことだ。小選挙区制は政権交代を可能にするというが大衆迎合になる」と、連立を行いやすい体制作りを語ったが、一方で民主党との大連立については「現時点ではない。自公連立であくまでいこうということは固まっている」としている。

そして安倍首相は歴史的大敗の1ヶ月半後、所信表明演説から2日後の9月12日、代表質問の1時間前に退陣表明をする。

その後続く自民党総裁選では、シナリオどころかキャストまで決まっていたのである。

[「大連立は9月に一度失敗していた」に続く]
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2007年11月11日

「大連立」は、民主と公明

政治は駆け引きと陰謀

党首会談を行うと決まった時から「政治の駆け引き」がはじまった。

福田康夫首相側の最大のミッションの一つは自民党政権を維持することである。
自民党にとって参議院で惨敗し法案成立が望めない現状では、何が起きてもいまより悪い事態になることはない。

参議院で力を得た民主党の勢いが衆議院にまで及んだら政権から離れなくてはならない。
命題の一つは重要法案を成立させること、もう一つは、最低でも衆議院での多数を維持するということだ。仮に、次回総選挙で圧倒的な議席を確保できれば、「国民の選択」を直近の民意として参院民主党に詰め寄ることも可能になる。

命題を解決する方法としては、
 ・プランA:自民党の支持を増やし影響力をあげる。
 ・プランB:民主党の力を弱くする。
 ・プランC:民主党もしくはその一部を自民党に吸収する。
が考えられる。

プランAは、最近の潮流から考えると短時間で劇的な改善はできず、次回の衆院選挙までに間に合いそうもない。
プランBは、敵失を起こすことである。民主党内のいがみ合い、ゴタゴタ、スキャンダルなどマイナス点を増やし人気を落とす方法がある。
プランCは、大連立か民主党の分裂である。参議院で民主党から17人以上自民党に移れば、与党が多数になりねじれが解消されるのだ。

福田首相に持ち込まれた「党首会談」は、プランB、プランCを共に行える名案である。
自民党にすれば、何もしなければ現状は変わらないが、民主党を揺さぶれば現状打開に結びつく動きが生まれるかもしれない。
党首会談で、民主党内で賛否が別れてしこりが残るような問題、国会運営など個別テーマでない大きな話、例えば連立や分党の誘い、密約などの話題を持ちかければ民主党が歩み寄るかもしれない。それがだめでも、小沢党首の対応に対して不信感が生じ反発を起こせるかもしれない。うまく行けば党が割れ、小沢党首本人または若手の分裂の動きになるかもしれない。分裂まで進めば自民党に吸収もしくは連立ができる可能性もある。分裂にならなくても問題を党に持ち帰りゴタゴタすれば、世間の評価を下げることができる。
福田首相がこれを実行するための「毒まんじゅう」を作るのは極めて簡単だったのである。

そして小沢一郎民主党代表は「毒まんじゅう」を食べてしまった。

福田首相が出した「毒まんじゅう」

「毒まんじゅう」フルコースの口当たりの良い前菜は、「自衛隊海外派遣の恒久法制定」への政府の大転換、メインディッシュは「両党の連立、新しい協力態勢の確立」だった。年金問題、少子化対策、農業再生など「マニフェストに掲げた政策の具現化」などは、小沢氏自らが調理したスープで、「次回衆議院総選挙での議席倍増に民主党は力不足」はスパイスだったろうか。
常々「政党なんてのは政策の手段に過ぎない」と口にしている小沢氏にとって、政策実現への千載一遇のチャンスと見えたのかもしれない。

「そういう話も出たが、聞かなかったことにしますと答えた。こういうことは密室ではまずい」とでも言えば逃げられたかも知れないが、小沢党首にとっての恒久法制定は旧自由党時代からの「年来の主張」であり、小泉首相の郵政改革と同様な存在だったのだろう。福田首相の提案にさまざまな可能性を見いだし、真面目に党に持ち帰ってしまった。しかしこれは後だから言える話である。場の進み方、意思のぶつかり合いで流れが決まる会談では、当事者にしかわからないことがあるものだ。

だが持ち帰った党の役員会で拒否され、小沢氏の進退は極まった。
話題を投げ込まれただけで意見が分裂し、いがみ合いが起き収拾がつかなくなる状況は珍しいものではなく、小沢氏がそれを知らないはずがない。しかし、小沢氏は策にはまってしまった。その、歯がゆさといらだちもトリガーになり、辞任の意思を固めたのではないだろうか。

今回の大連立騒動では、自民党自身も毒まんじゅうを食べてしまった。
一連の報道で大連立は外部から持ち込まれたものであることがわかった。仕掛人は渡辺恒雄氏。読売新聞社会長で主筆でもある。福田政権樹立にも一役買ったもいわれる渡辺氏は、8月16日の読売新聞に、社説「大連立 民主党も『政権責任』を分担せよ」を書き、8月21日、22日に鳩山由紀夫幹事長、小沢一郎民主党代表に相次いで連立を持ちかけ断られた。その後、自民党実力者に「自民、民主大連立、憲法改正、社会保障改革、中選挙区制の復帰」を説き今回の大連立に至ったとされる。

しかし、自民党党内にも大連立のコンセンサスができていたわけではなかった。2日の会談を前にして町村信孝官房長官が党内の回ったが、連立賛成は二階俊博総務会長1人だけ、山崎拓前副総裁、谷垣禎一政調会長、津島雄二元厚相、伊吹幹事長らほとんどの領袖が反対した。伊吹文明幹事長は記者会見で大連立を批判、会見前に福田首相に「大連立は断れ」とクギを刺すなどの行動も報じられている。参院選挙後大連立賛成を表明していた山崎前副総裁は、渡辺恒雄氏に反対を表明し激怒されたといわれる。

公明党との関係にも影響が大きい。30日の党首会談に先立ち、自民党の伊吹幹事長は公明党の北側一雄幹事長に「国益と特措法案に限って小沢氏と話す」と説明した。おそらくその前に開かれた臨時役員会で確認した「特措法成立と引き換えの解散・総選挙は受けない。大連立を持ちかけられても乗らない」も話しただろう。
公明党にしてみれば、もし大連立が成立すれば自民党は議席数の多い民主党に顔を向け、公明党の存在意義が薄れてしまう。危機感は、7日の太田代表による中選挙区制の復活の談話にもそれがあらわれている。自民党も自公同盟の再確認をするなど結束強化を表明しているが、小沢党首のいう「自民と公明の関係にくさびを打ち込む」結果になった。
自民党にとってのマイナスは、明らかになった内閣をあやつる影の存在と与党内で生じた猜疑心である。

民主党にとって浮かぶ瀬は

たしかに、民主党にとって衆議院総選挙は厳しい。
与党自民党は、前回2005年の郵政選挙で小選挙区219議席、比例区77議席、合計296議席を確保し、公明党は小選挙区8議席、比例区23議席、合計31議席をとった。与党の合計は327議席と圧倒的多数を超えている。対する民主党は、小選挙区52議席、比例区61議席の合計113議席である。
衆議院の定数は480議席だから、民主党は、現在の議席にあと128議席上乗せしなければ過半数の241議席にならない。安定多数は252議席をめざすならあと139議席必要だ。いずれにしろ今の倍以上の議席にしなければならない。

今の議席配分は小泉人気によるバブルが含まれているだろうが、それでも自民党と民主党の得票率は小選挙区で11ポイント、比例区で7ポイントの差である。公明党の得票率は小選挙区1.4%、比例区13.2%だ。選挙協力により小選挙区で公明党支援者が自民党に投票したのなら、公明党支援者を除いた自民党の小選挙区の得票率は36%になり民主党と拮抗する。
自民党と民主党の得票率の差が10%前後の小選挙区が40区あるが、小沢党首は「200議席まではいけるだろうが、その先が難しい」と認めている。公明党との選挙協力で具体的な新しい政治体制への期待感がでなければ、民主党に勝機は生まれない。

      総務省選挙関連資料:衆議院議員総選挙より

民主党は必死になって混乱で生じたマイナス要素を打ち消そうとし、党分裂をギリギリのところで踏みとどまることができた。しかし、自民党関係者によれば「支持率は10%程度落ちるだろう」といわれるほど国民に与えたマイナスイメージは大きく、衆議院の解散は難しくなったという。
自民党が新テロ特措法をだしたとき、民主党は首相への問責決議案を出しにくくなった。問責決議案がでれば福田首相は衆議院を解散し総選挙になる。だが、大連立騒動により参議院選のときのような国民の支持は期待できないからだ。

民主党のトップは10日に会合を開き、衆議院総選の選挙対策本部を設置する日程を決めた。そしてイラク復興支援特別措置法廃止法案を優先させるなど正攻法の対決姿勢を確認した。その結果新たな動きがおき、局面がいきなり変わる可能性が出てきた。
民主党は正念場でいよいよ真剣に考えはじめたようだ。

[毒まんじゅうを作る怪人の「大連立を画策した筋書き」に続く]

2007年11月4日

制作者、広告主が自ら配信する時代

販路は人に頼らない

この夏まで、AppleのiTunes Storeで売られていた米NBC Universalのテレビ番組が、9月1日から姿を消した。
契約更新で NBC側が従来の2倍以上の4.99ドルの販売価格を提示、結局価格交渉は合意されず契約が打ち切られたらしい。iTunes Storeは、ABCやCBS、FOXなどそのほかの局とは従来通りの販売価格1.99ドルの契約をすませているが、NBCの番組は iTunesで販売されるテレビ番組の30%にあたり、人気番組ベスト10の中に3つ入るほど目玉商品が多かった。

NBCは自社コンテンツを9月10日からAmazon「Unbox」で配信すると発表。「HEROES/ヒーローズ」、Chuck、 Journeyman、Life、30 Rock、新シリーズのバイオニックウーマンのパイロット版がAmazon「Unbox」のユーザに無料公開される。テレビで放映された番組は放映翌日から利用可能。値段は1作品1.99ドルでiTunesと同じ、さらにフルシーズンのパックなら30%引きになる。
また、NBCは10月22日、YouTubeから宣伝ビデオを削除したことを明らかにした。
YouTubeとは2006年6月に提携しNBCの公式チャンネルを開設してドラマや「Saturday Night Live」「The Tonight Show」などの看板番組の予告や宣伝ビデオを配信し、逆にYouTubeに投稿された動画を「The Office」の中で紹介するなど相互宣伝のモデルといわれていた。

NBC UniversalがiTunes StoreやYouTubeとの契約を必要としなくなったのは、News Corpと動画サイトを立ち上げ、自らコンテンツ配信を進めようとしていることがある。
新サイトHuluは、「YouTube対抗」サイトといわれている。

Huluは、2007年10月29日オンラインビデオサービスのベータ版を公開し会員を集めはじめた。
Fox ネットワーク、MGM、Sonyピクチャーとも提携し、これにより NBC/Universal、FOX、MGM、Sony Pictures Televisionのハリウッド4大スタジオのコンテンツを配信可能にした。さらに、BNET、Bravo、CNET、Comedy Time、E! Entertainment Television、Ford Models、Fox Atomic、Fox Reality、FX Networks、FUEL TV、G4、Golf Channel、IGN、Movieola、National Geographic、Oxygen、SPEED、Sundance Channel、Sci Fi Network、The Fight Network、The Style Network、X17 Online、USA Network、Versusなどのケーブルテレビに配信の話をつけている。
Huluはこれらの動画を、AOL、Comcast、MSN、MySpace、Yahoo!などの配信パートナーを通して配信する予定である。cf. Investor's Business Daily

NBCは、テレビ放送だけでなくインターネットに於いても自社の番組、映画を自社で配信する意思を固めたのである。しかも、その資金力と影響力を駆使して、新興のベンチャーではできない大規模な立ち上げのために、ハリウッドをはじめ2つのネットワーク、CATVが蓄えたスポーツやドキュメンタリー番組などにいたるまで、とことんコンテンツを網羅する意思を持っている。

Huluは、インターネットビジネスで一般的だった「小さく初めて大きく育てる」モデルに対し、真正面から「大きく初めて圧倒的に」戦略をぶつけてきた。従来型のビジネス文化を持った企業から生まれた Huluがインターネットで成功すれば、豊富な資金を持つ大企業が同じ手法で参入する道を拓くことになるだろう。

「成功する可能性は低い」と見ているアナリストの意見もあるが、ベンチャー企業の最初のハードルである資金と人材をすでに持っている大企業がどのようにビジネスを進めるか、インターネットで先行し展開している YouTubeVeoh Videoなど、ベンチャーの活気を持って前進している企業はどう対処するか、ユーザはどう判断し動くか、しばらく眼が離せない。


自社で広告配信する時代

NBCはテレビ局なのでインターネットへの進出もチャンネルを増やす行動とみればもっともである。
しかし、広告主自らが直接宣伝を行おうとしている例がある。
バドワイザーを製造する米国最大の醸造メーカーのアンホイザー‐ブッシュが始めた配信会社Bud.TVだ。

アンホイザー・ブッシュはバドワーザーを売っているが、ビール離れが特に最大顧客の若者で進みはじめている。テレビCMは、Tivoの普及で録画された番組のCMが飛ばされてしまい、スポーツの生中継以外はCMの効果が薄くなっているといわれている。テレビを見る時間を減らしてインターネットを見る傾向が強まり、しかもアンホイザー‐ブッシュの最大顧客である21歳から34歳の若者でその動きが顕著になっている。そしてその若者の多くがYouTubeを見ているのである。
そこでアンホイザー‐ブッシュは、インターネットで自ら宣伝を行おうと考えたのだ。

インターネットを使った有名な宣伝として、ユニリーバ/Unileverが行った男性化粧品LynxのバイラルCM、The Lynx Effect,Lynx Jetが挙げられる。ユニリーバは、インパクトはあるがテレビでは流せそうもない少し過激なCMを作りYouTubeで流したのだ。このCMは期待通りの効果をもたらし、口コミで広がり多くのサイトで紹介され、一時期はYouTubeを見るたび必ず眼に入るほどだった。

広告主自身がコンテントプロバイダーになるこれらの手法は、ブランデッド・エンターテインメントとして注目されている。従来のブランデッド・エンターテインメントは、映画やテレビ番組の中で商品を使って行う宣伝(プロダクトプレースメント)として行われており、「ミスター&ミセス スミス/Mr. & Mrs. Smith」のサブゼロの冷蔵庫、プラダを着た悪魔/The Devil Wears Pradaのスターバックス、iMac、「トランスポーター2/Transporter 2」のAudi A8 W12 Quattro、「プリティブライド/Runaway Bride」のFedEXなどがそれである。日本では、「暴れん坊ママ」、「モップガール」、「ハタチの恋人」など、テレビドラマに登場するDocomoの携帯電話がそれにあたる。
一方、これを逆手に取って茶化した「トゥールーマン・ショー/The Truman Show、」「リターン・オブ・ザ・キラートマト/Return of the Killer Tomatoes! 」などもある。
広義のブランデッド・エンターテインメントには、企業の名前を冠したゴルフ大会やマラソンなどのオフィシャルサポートなどもあるが、インターネットを使ったブランデッド・エンターテインメントは今までのものとは違い、極めて能動的なものである。

アンホイザー‐ブッシュ/バドワイザーのターゲットである若い男性は、Harris Interactive調査結果にあるように、テレビの視聴時間を減らしインターネットに接する時間を増やし、投稿された新鮮で面白い動画を探して視聴している。そして彼らのうち、18歳から24歳の76%、25歳から34歳の53%、35歳から49歳の53%がYouTubeを利用しているのである。
YouTubeはセコイアキャピタル/Sequoia Capitalから350万ドルの投資を受けてスタートした。一方、アンホイザー・ブッシュは年間9億1940万ドルの広告費を使っている。多額の広告費を広告代理店と放送局につぎ込んでいるが、到達率はわかっても肝心の購買行動を起こすための効果がよくわからない。

「ターゲットはテレビを離れ、YouTubeに行っちゃったじゃないか」
「たかだか数百万ドルで作れる動画サイトを、アンホイザー・ブッシュが作れないはずがない」
「制作会社を作り配信会社を作っても年間広告費のほんの一部だ」
「えーい、それなら自分でやろうじゃないか!」
と考えたのがBud.TV設立の発端のようだ。

2007年11月3日

テレビの暗黒面と2兆円の市場

テレビが信用できない

2007年1月、視聴率15%前後、ときには20%近くも取っていた「発掘!あるある大事典2」(フジテレビ/関西テレビ)の「納豆ダイエット」でねつ造疑惑が発覚した。

スクープした週刊朝日によると、ダイエット効果の発見者として番組に登場した「テンプル大アーサー・ショーツ教授」は存在せず、実際の研究はワシントン大学のシュワルツ教授のグループが行っていた。取材され番組に登場したシュワルツ教授だが、「そんなことはいっていない。やっていない」と日本語訳されたテロップの内容を否定。そもそもグループのポリアミンの研究は、65歳以上の人の腹部に関するものだが番組で示されるのは顔写真。しかも教授は番組に協力していない、写真も提供していないなど疑惑が相次ぎ、取材記者によると、3〜4日の取材で全部ばれるほどの情けないねつ造で、叩くとホコリがでるどころか、中身がなくてホコリだけの状態だったそうである。

当初、言い逃れでかわそうとした関西テレビだが、取材が進むにつれ「レタス快眠」、米国で大ブーム「味噌汁ダイエット」、「ワサビで10才若返る!」、レモンの「正月太り解消? 食べても太らない新理論」、二重あご解消の「10日間で変わる!顔ヤセの科学」、「小豆あんこで頭が活性化」などで次々疑惑が浮かびあがる。
そして最終的に「外部識者による調査委員会」から10件のねつ造と、6件の灰色番組が報告され、単独スポンサーだった民放で1,2を争う大スポンサーの花王は番組から降り、その後、関西テレビは日本民間放送連盟から除名処分となった。

しかし、テレビ業界の騒動はこれで終わらず、さらにつぎつぎと問題が報道される。
不二家報道では「みのもんたの朝ズバッ!」(TBS)が、元社員の事実と異なる発言を裏付けを取らず放送し、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会から問題を指摘され、さらに総務省から厳重注意を受けた。ついで情報番組「ピンポン!」(TBS)が、関東アマチュア選手権で試合中の石川遼選手の声を拾うためにマイクを付けようとしたり、同じ試合で「イブニング5」(TBS)がコース上空にヘリを試合中に無断で飛ばしたり問題が絶えなかった。

過去の「教えて!ウルトラ実験隊」(テレビ東京)のねつ造事件、みのもんたの「愛する二人 別れる二人」(フジ)のやらせ発覚による番組打ち切りなどは、業界の警鐘にはならなかったようだ。結局、不二家報道でTBSは不二家側への明確な謝罪をせず、他人は責めるが自分に甘いテレビ局の往生際の悪い体質を視聴者に露呈してしまった。

和歌山カレー事件、秋田小1殺害事件、朝青龍問題など、テレビ的に価値を見いだした事件を数週間以上にわたって連日報道する姿は、事件にたかって喰えるだけ食いつくし、次の事件が起きればそちらに大挙して飛びつくネットいなごのイメージが重なる。視聴率アップのためなら世間の常識など無視し傲慢に押し進めるその姿勢は、とにかく商品であるCM枠を売ろうというどん欲な姿である。
また、結論を先に持ち一方的な決めつけで煽り裁こうする報道は、見ていて気持ちの良いものではなく、繰り返される偏執ぶりは信頼性を疑わせ、テレビ自身の価値を自ら貶めることになっている。

テレビ局の稼ぎかた

テレビ局は、放送電波を確保し、放送設備を整え、放映する番組を用意することからビジネスを始めた。
黎明期は「シャボン玉ホリデー」、「夢で合いましょう」、「お笑い三人組」、「ジェスチャー」、「ごろんぼ波止場」などのバラエティー番組だけでなく、「事件記者」、「バス通り裏」などのドラマも生放送されていた。「てなもんや三度笠」、「とんま天狗」などのような公開生放送も結構多かった。「ジャガーの眼」、「少年ジェット」などの野外ロケ番組はフィルムで録画されたが画像は荒く、14インチ程度の白黒テレビで見ると現在の YuoTubeよりも不鮮明だった。しかし皆、新しい娯楽に眼を輝かして見入ったものだ。

新聞が紙面のスペースを広告に当てて販売するように、テレビ局は放映する番組の間に入れる広告の時間を売って収入を得ている。
小さな箱の中で動くテレビ番組は、人々の注目を集め流行を作り、番組が人目を引き話題になるにつれ、テレビによる宣伝は視聴者の購買行動に効果があると評判になった。しかし、時間は有限であるうえテレビCMを出そうという会社が増えてもテレビ局の数は増えず、需要と供給のバランスによりCM枠は売り手市場になり、テレビ業界はまたたく間に強固な帝国を築くことになった。
商品である広告枠は次第に高額になり、テレビ総広告費はこの20年で約2倍の2兆円を超えるに至っている。

平成19年度3月期の決算から、各社の売上高、経常利益を比較してみよう。

フジテレビはお台場事業、TBSは赤坂再開発の収入が含まれている。
  参照:フジテレビ日本テレビTBSテレビ朝日讀賣テレビ松下電器産業

番組制作に、テレビ局 -> 下請け -> 孫請けの構造があるとしても、製造業や一般のサービス業とは大きくプロフィットの形態が異なり、抜群の利益率を得ているのがテレビ業界といえる。そのテレビ業界に2兆円以上の金額をテレビ広告費として払い支えているのが広告主である。
日本の広告主はなかなか鷹揚で、人の良い大店の旦那衆のようなところがある。しかしコストパフォーマンスに厳しい米国の広告主の中に新しい広告の潮流が生まれはじめた。
トリガーとなっているのがインターネットである。