参院選でシナリオは加筆された
閣僚の政治団体の多額の事務所費問題、補助金の不正受給などの「政治とカネ」と相次ぐ失言で下降を続けた安倍内閣の支持率は、7月初旬の32%からさらに下がり選挙前の18日には支持率は27.9%、不支持率は51.7%になった。特に古くからの自民党の支持基盤である本州北部、四国、九州で支持率の低下が目立っていた。(読売新聞世論調査)そして29日の参院選で、選挙前改選議席の134議席の与党は、自民党37議席(改選前64議席)、公明党9議席(改選前12議席)の105議席と惨敗する。
民主党は60議席(改選前32議席)を得て、結党以来最大の109議席となったのだ。
この選挙は今までの選挙戦術の転換を迫る新たな時代の到来を自民党に突きつけた。
比例区で農協が推す新人の山田俊男氏、歯科医師会の新人石井みどり氏、建設業界が推す佐藤信秋氏が当選したが、医師会に君臨し天皇・ケンカ太郎と言われた武見太郎の長男で前職の武見敬三氏、土地改良団体の組織票を固めようとした前職の段本幸男氏、薬剤師団体が推す前職の藤井基之氏、運輸団体が推す前職藤野公孝氏、看護団体の松原まなみ氏、建設族の元職上野公成氏、農協が推したもう1人の福島啓史郎氏、漁協の丸一芳訓氏が相ついで落選し、業界団体を背景にした旧来の集票システムの破綻を印象づけたのである。
比例区トップ当選の舛添要一氏も得票は470,571票と前回2001年の1,588,262票から激減、さらに岡山選挙区では参院幹事長だった片山虎之助が、民主党の新人姫井由美子氏に約48,000票の大差をつけられて落選し衝撃が走った。
2004年の参議院選の1人区では自民民主両党の戦いは互角だったが、今回自民は四国の4議席、東北1人区の4議席をすべて落とすなど 6勝23敗と大幅に後退し歴史的大敗となった。民主党は、17同県で40%を超える得票率を得て、いままで強かった都市部だけでなく地方でも着実に力をつけてきたことをうかがわせた。
当然ながら参院選の敗北で、党首の安倍首相の責任を問う声が出た。
首相は責任を認めたものの早々と続投を表明する。党内では公然と首相への辞任要求がでたが、安倍首相は30日には公明党の太田昭宏代表との与党党首会談で連立の維持を確認。さらに内閣改造、党役員人事の刷新を表明する。
さっそく、閣僚ゼロの谷垣派の谷垣禎一前財務相が、「党全体がバラバラではだめ。力を合わせていく態勢をどうつくるかだ」など、反安倍勢力は閣僚、党役員の要職入りを期待し退陣論は沈静化に向かった。
シナリオライターが自ら演出
そして8月16日。読売新聞の社説に「大連立 民主党も『政権責任』を分担せよ」が掲載された。(中川秀直公式Webサイトより)社説の要旨は以下である。
・参院の与野党逆転で法案通過には民主党の賛成か衆院再可決しかない。
・自民は衆院再可決を簡単には使えない。
・自民の予算関連法案が成立しないと国民生活に重大な影響が出る。
・解散総選挙で自民が勝っても衆参のねじれは解消しない。
・自民が3年後に参院選でねじれを解消するのは難しい。6年後でも難しいだろう。
・ねじれがあれば国政は長期にわたり混迷する。
・混迷打破は参院の与党民主党に「政権責任」を分担してもらうしかない。
・民主は「大連立」政権に参加しろ。
・自民は政権参加を民社党に呼びかけろ。
・民社にとってもねじれ状態は負担である。
・政府与党に対決、揺さぶるだけでは政権担当能力を問われる。
・自民が提示する国益を考えれば妥協が必要な場合がでる。
・国益にとって必要な妥協をしないで国政が混乱すれば民主のせいだ。
・大連立すれば自民が考える社会保障制度の立て直しも少子化対策も進められる。
・それに必要な財源が消費税率の引き上げだ。
・自民民主が大連立すればそれができるようになる。
・自民と安全保障や外交などの主張の差があるなら政策協定すればいい。
・民主が政策協定するならほかの党も政権に参加させてやってもよい。
・テロ特措法の期限延長問題も国会でなく政権内部の協議でやればいい。
・ミサイル防衛、米軍再編問題も同じだ。
・外交、安保は両党に大きな差はない。
・社会保障政策も両党に大きな差はない。
・自民の税制抜本改革論議に民主が参加すれば消費税率引き上げも進めやすい。
・ドイツではキリスト教民主同盟と社会民主党の大連立ができた。
・大連立しても第2党の存在が薄くなるわけではない。だから民主の存在感は残る。
・大連立のおかげでメルケル政権は付加価値税(消費税)を3%アップして19%にできた。
・大連立して政権内部で議論が加熱するのは国会審議の停滞より効率的だ。
・秋の臨時国会でぶつかり合うより、早急に大連立しろ。
シナリオは役者に渡されていた
読売新聞の社説に応え、自民党の中川秀直幹事長が8月21日の記者会見で大連立に言及した。時事通信が8月に行った世論調査「望む政権の形は」をもとに「、民意は、小沢氏の政権交代による非自民連立政権を望まず、自民中軸の政権を50・2%が望んでいるということである」とブログに書いたことを明らかにし、「よりよい日本をつくるための改革を考えて与野党が歩み寄ることが民意に応える道だ。謙虚に考えるべきだ」と、大連立への道をさし示したのだ。(産経)
また「読売以外のマスコミはどうか。これまでマスコミは大連立には否定的であったように思われる。マスコミの大局観が問われている。マスコミが動かなければ民主党も動かないだろう」と社説を援護し世論を盛り上げようとした。
民主党鳩山由紀夫幹事長は同日これに言及し「自民党が参院選で惨敗したから大連立だとの発想には傾かない。選挙で国民の期待をもらったが、『自民党と連立しろ』との発想ではない」と実現の可能性を否定した。
この前後、自民党幹部からは大連立に関する発言が相次いでいた。
山崎拓元副総裁(当時)は参院選前の7月24日、福岡の講演で憲法改正問題をめぐり「自民、民主で大連立を組む以外にない」と発言。武部勤前幹事長も8月23日、「日本がつぶれたらどうにもならない。最後は国家、国民が第一。そのためには、大連立だって結構だ」と都内の講演で語った。二階俊博総務会長(当時)も8月31日の報道各社のインタビューで「知恵のひとつに大連立構想はある。連立を組めれば組んでいきたい」と述べている。
9月7日には中曽根康弘元首相がTBS番組の収録で「(11月1日に期限切れの)テロ特措法は内閣の死命を制する重大問題。特措法で大連立すれば、民主党が将来政権をとるよいチャンスだ。党首会談をやり協力する癖をつけて成就させるべきだ」と語った。
一方、公明党の太田代表は8月24日、ラジオ番組で「「中選挙区制にすることが非常に大事なことだ。小選挙区制は政権交代を可能にするというが大衆迎合になる」と、連立を行いやすい体制作りを語ったが、一方で民主党との大連立については「現時点ではない。自公連立であくまでいこうということは固まっている」としている。
そして安倍首相は歴史的大敗の1ヶ月半後、所信表明演説から2日後の9月12日、代表質問の1時間前に退陣表明をする。
その後続く自民党総裁選では、シナリオどころかキャストまで決まっていたのである。
[「大連立は9月に一度失敗していた」に続く]
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