2007年11月4日

制作者、広告主が自ら配信する時代

販路は人に頼らない

この夏まで、AppleのiTunes Storeで売られていた米NBC Universalのテレビ番組が、9月1日から姿を消した。
契約更新で NBC側が従来の2倍以上の4.99ドルの販売価格を提示、結局価格交渉は合意されず契約が打ち切られたらしい。iTunes Storeは、ABCやCBS、FOXなどそのほかの局とは従来通りの販売価格1.99ドルの契約をすませているが、NBCの番組は iTunesで販売されるテレビ番組の30%にあたり、人気番組ベスト10の中に3つ入るほど目玉商品が多かった。

NBCは自社コンテンツを9月10日からAmazon「Unbox」で配信すると発表。「HEROES/ヒーローズ」、Chuck、 Journeyman、Life、30 Rock、新シリーズのバイオニックウーマンのパイロット版がAmazon「Unbox」のユーザに無料公開される。テレビで放映された番組は放映翌日から利用可能。値段は1作品1.99ドルでiTunesと同じ、さらにフルシーズンのパックなら30%引きになる。
また、NBCは10月22日、YouTubeから宣伝ビデオを削除したことを明らかにした。
YouTubeとは2006年6月に提携しNBCの公式チャンネルを開設してドラマや「Saturday Night Live」「The Tonight Show」などの看板番組の予告や宣伝ビデオを配信し、逆にYouTubeに投稿された動画を「The Office」の中で紹介するなど相互宣伝のモデルといわれていた。

NBC UniversalがiTunes StoreやYouTubeとの契約を必要としなくなったのは、News Corpと動画サイトを立ち上げ、自らコンテンツ配信を進めようとしていることがある。
新サイトHuluは、「YouTube対抗」サイトといわれている。

Huluは、2007年10月29日オンラインビデオサービスのベータ版を公開し会員を集めはじめた。
Fox ネットワーク、MGM、Sonyピクチャーとも提携し、これにより NBC/Universal、FOX、MGM、Sony Pictures Televisionのハリウッド4大スタジオのコンテンツを配信可能にした。さらに、BNET、Bravo、CNET、Comedy Time、E! Entertainment Television、Ford Models、Fox Atomic、Fox Reality、FX Networks、FUEL TV、G4、Golf Channel、IGN、Movieola、National Geographic、Oxygen、SPEED、Sundance Channel、Sci Fi Network、The Fight Network、The Style Network、X17 Online、USA Network、Versusなどのケーブルテレビに配信の話をつけている。
Huluはこれらの動画を、AOL、Comcast、MSN、MySpace、Yahoo!などの配信パートナーを通して配信する予定である。cf. Investor's Business Daily

NBCは、テレビ放送だけでなくインターネットに於いても自社の番組、映画を自社で配信する意思を固めたのである。しかも、その資金力と影響力を駆使して、新興のベンチャーではできない大規模な立ち上げのために、ハリウッドをはじめ2つのネットワーク、CATVが蓄えたスポーツやドキュメンタリー番組などにいたるまで、とことんコンテンツを網羅する意思を持っている。

Huluは、インターネットビジネスで一般的だった「小さく初めて大きく育てる」モデルに対し、真正面から「大きく初めて圧倒的に」戦略をぶつけてきた。従来型のビジネス文化を持った企業から生まれた Huluがインターネットで成功すれば、豊富な資金を持つ大企業が同じ手法で参入する道を拓くことになるだろう。

「成功する可能性は低い」と見ているアナリストの意見もあるが、ベンチャー企業の最初のハードルである資金と人材をすでに持っている大企業がどのようにビジネスを進めるか、インターネットで先行し展開している YouTubeVeoh Videoなど、ベンチャーの活気を持って前進している企業はどう対処するか、ユーザはどう判断し動くか、しばらく眼が離せない。


自社で広告配信する時代

NBCはテレビ局なのでインターネットへの進出もチャンネルを増やす行動とみればもっともである。
しかし、広告主自らが直接宣伝を行おうとしている例がある。
バドワイザーを製造する米国最大の醸造メーカーのアンホイザー‐ブッシュが始めた配信会社Bud.TVだ。

アンホイザー・ブッシュはバドワーザーを売っているが、ビール離れが特に最大顧客の若者で進みはじめている。テレビCMは、Tivoの普及で録画された番組のCMが飛ばされてしまい、スポーツの生中継以外はCMの効果が薄くなっているといわれている。テレビを見る時間を減らしてインターネットを見る傾向が強まり、しかもアンホイザー‐ブッシュの最大顧客である21歳から34歳の若者でその動きが顕著になっている。そしてその若者の多くがYouTubeを見ているのである。
そこでアンホイザー‐ブッシュは、インターネットで自ら宣伝を行おうと考えたのだ。

インターネットを使った有名な宣伝として、ユニリーバ/Unileverが行った男性化粧品LynxのバイラルCM、The Lynx Effect,Lynx Jetが挙げられる。ユニリーバは、インパクトはあるがテレビでは流せそうもない少し過激なCMを作りYouTubeで流したのだ。このCMは期待通りの効果をもたらし、口コミで広がり多くのサイトで紹介され、一時期はYouTubeを見るたび必ず眼に入るほどだった。

広告主自身がコンテントプロバイダーになるこれらの手法は、ブランデッド・エンターテインメントとして注目されている。従来のブランデッド・エンターテインメントは、映画やテレビ番組の中で商品を使って行う宣伝(プロダクトプレースメント)として行われており、「ミスター&ミセス スミス/Mr. & Mrs. Smith」のサブゼロの冷蔵庫、プラダを着た悪魔/The Devil Wears Pradaのスターバックス、iMac、「トランスポーター2/Transporter 2」のAudi A8 W12 Quattro、「プリティブライド/Runaway Bride」のFedEXなどがそれである。日本では、「暴れん坊ママ」、「モップガール」、「ハタチの恋人」など、テレビドラマに登場するDocomoの携帯電話がそれにあたる。
一方、これを逆手に取って茶化した「トゥールーマン・ショー/The Truman Show、」「リターン・オブ・ザ・キラートマト/Return of the Killer Tomatoes! 」などもある。
広義のブランデッド・エンターテインメントには、企業の名前を冠したゴルフ大会やマラソンなどのオフィシャルサポートなどもあるが、インターネットを使ったブランデッド・エンターテインメントは今までのものとは違い、極めて能動的なものである。

アンホイザー‐ブッシュ/バドワイザーのターゲットである若い男性は、Harris Interactive調査結果にあるように、テレビの視聴時間を減らしインターネットに接する時間を増やし、投稿された新鮮で面白い動画を探して視聴している。そして彼らのうち、18歳から24歳の76%、25歳から34歳の53%、35歳から49歳の53%がYouTubeを利用しているのである。
YouTubeはセコイアキャピタル/Sequoia Capitalから350万ドルの投資を受けてスタートした。一方、アンホイザー・ブッシュは年間9億1940万ドルの広告費を使っている。多額の広告費を広告代理店と放送局につぎ込んでいるが、到達率はわかっても肝心の購買行動を起こすための効果がよくわからない。

「ターゲットはテレビを離れ、YouTubeに行っちゃったじゃないか」
「たかだか数百万ドルで作れる動画サイトを、アンホイザー・ブッシュが作れないはずがない」
「制作会社を作り配信会社を作っても年間広告費のほんの一部だ」
「えーい、それなら自分でやろうじゃないか!」
と考えたのがBud.TV設立の発端のようだ。

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