政治は駆け引きと陰謀
党首会談を行うと決まった時から「政治の駆け引き」がはじまった。福田康夫首相側の最大のミッションの一つは自民党政権を維持することである。
自民党にとって参議院で惨敗し法案成立が望めない現状では、何が起きてもいまより悪い事態になることはない。
参議院で力を得た民主党の勢いが衆議院にまで及んだら政権から離れなくてはならない。
命題の一つは重要法案を成立させること、もう一つは、最低でも衆議院での多数を維持するということだ。仮に、次回総選挙で圧倒的な議席を確保できれば、「国民の選択」を直近の民意として参院民主党に詰め寄ることも可能になる。
命題を解決する方法としては、
・プランA:自民党の支持を増やし影響力をあげる。
・プランB:民主党の力を弱くする。
・プランC:民主党もしくはその一部を自民党に吸収する。
が考えられる。
プランAは、最近の潮流から考えると短時間で劇的な改善はできず、次回の衆院選挙までに間に合いそうもない。
プランBは、敵失を起こすことである。民主党内のいがみ合い、ゴタゴタ、スキャンダルなどマイナス点を増やし人気を落とす方法がある。
プランCは、大連立か民主党の分裂である。参議院で民主党から17人以上自民党に移れば、与党が多数になりねじれが解消されるのだ。
福田首相に持ち込まれた「党首会談」は、プランB、プランCを共に行える名案である。
自民党にすれば、何もしなければ現状は変わらないが、民主党を揺さぶれば現状打開に結びつく動きが生まれるかもしれない。
党首会談で、民主党内で賛否が別れてしこりが残るような問題、国会運営など個別テーマでない大きな話、例えば連立や分党の誘い、密約などの話題を持ちかければ民主党が歩み寄るかもしれない。それがだめでも、小沢党首の対応に対して不信感が生じ反発を起こせるかもしれない。うまく行けば党が割れ、小沢党首本人または若手の分裂の動きになるかもしれない。分裂まで進めば自民党に吸収もしくは連立ができる可能性もある。分裂にならなくても問題を党に持ち帰りゴタゴタすれば、世間の評価を下げることができる。
福田首相がこれを実行するための「毒まんじゅう」を作るのは極めて簡単だったのである。
そして小沢一郎民主党代表は「毒まんじゅう」を食べてしまった。
福田首相が出した「毒まんじゅう」
「毒まんじゅう」フルコースの口当たりの良い前菜は、「自衛隊海外派遣の恒久法制定」への政府の大転換、メインディッシュは「両党の連立、新しい協力態勢の確立」だった。年金問題、少子化対策、農業再生など「マニフェストに掲げた政策の具現化」などは、小沢氏自らが調理したスープで、「次回衆議院総選挙での議席倍増に民主党は力不足」はスパイスだったろうか。常々「政党なんてのは政策の手段に過ぎない」と口にしている小沢氏にとって、政策実現への千載一遇のチャンスと見えたのかもしれない。
「そういう話も出たが、聞かなかったことにしますと答えた。こういうことは密室ではまずい」とでも言えば逃げられたかも知れないが、小沢党首にとっての恒久法制定は旧自由党時代からの「年来の主張」であり、小泉首相の郵政改革と同様な存在だったのだろう。福田首相の提案にさまざまな可能性を見いだし、真面目に党に持ち帰ってしまった。しかしこれは後だから言える話である。場の進み方、意思のぶつかり合いで流れが決まる会談では、当事者にしかわからないことがあるものだ。
だが持ち帰った党の役員会で拒否され、小沢氏の進退は極まった。
話題を投げ込まれただけで意見が分裂し、いがみ合いが起き収拾がつかなくなる状況は珍しいものではなく、小沢氏がそれを知らないはずがない。しかし、小沢氏は策にはまってしまった。その、歯がゆさといらだちもトリガーになり、辞任の意思を固めたのではないだろうか。
今回の大連立騒動では、自民党自身も毒まんじゅうを食べてしまった。
一連の報道で大連立は外部から持ち込まれたものであることがわかった。仕掛人は渡辺恒雄氏。読売新聞社会長で主筆でもある。福田政権樹立にも一役買ったもいわれる渡辺氏は、8月16日の読売新聞に、社説「大連立 民主党も『政権責任』を分担せよ」を書き、8月21日、22日に鳩山由紀夫幹事長、小沢一郎民主党代表に相次いで連立を持ちかけ断られた。その後、自民党実力者に「自民、民主大連立、憲法改正、社会保障改革、中選挙区制の復帰」を説き今回の大連立に至ったとされる。
しかし、自民党党内にも大連立のコンセンサスができていたわけではなかった。2日の会談を前にして町村信孝官房長官が党内の回ったが、連立賛成は二階俊博総務会長1人だけ、山崎拓前副総裁、谷垣禎一政調会長、津島雄二元厚相、伊吹幹事長らほとんどの領袖が反対した。伊吹文明幹事長は記者会見で大連立を批判、会見前に福田首相に「大連立は断れ」とクギを刺すなどの行動も報じられている。参院選挙後大連立賛成を表明していた山崎前副総裁は、渡辺恒雄氏に反対を表明し激怒されたといわれる。
公明党との関係にも影響が大きい。30日の党首会談に先立ち、自民党の伊吹幹事長は公明党の北側一雄幹事長に「国益と特措法案に限って小沢氏と話す」と説明した。おそらくその前に開かれた臨時役員会で確認した「特措法成立と引き換えの解散・総選挙は受けない。大連立を持ちかけられても乗らない」も話しただろう。
公明党にしてみれば、もし大連立が成立すれば自民党は議席数の多い民主党に顔を向け、公明党の存在意義が薄れてしまう。危機感は、7日の太田代表による中選挙区制の復活の談話にもそれがあらわれている。自民党も自公同盟の再確認をするなど結束強化を表明しているが、小沢党首のいう「自民と公明の関係にくさびを打ち込む」結果になった。
自民党にとってのマイナスは、明らかになった内閣をあやつる影の存在と与党内で生じた猜疑心である。
民主党にとって浮かぶ瀬は
たしかに、民主党にとって衆議院総選挙は厳しい。与党自民党は、前回2005年の郵政選挙で小選挙区219議席、比例区77議席、合計296議席を確保し、公明党は小選挙区8議席、比例区23議席、合計31議席をとった。与党の合計は327議席と圧倒的多数を超えている。対する民主党は、小選挙区52議席、比例区61議席の合計113議席である。
衆議院の定数は480議席だから、民主党は、現在の議席にあと128議席上乗せしなければ過半数の241議席にならない。安定多数は252議席をめざすならあと139議席必要だ。いずれにしろ今の倍以上の議席にしなければならない。
今の議席配分は小泉人気によるバブルが含まれているだろうが、それでも自民党と民主党の得票率は小選挙区で11ポイント、比例区で7ポイントの差である。公明党の得票率は小選挙区1.4%、比例区13.2%だ。選挙協力により小選挙区で公明党支援者が自民党に投票したのなら、公明党支援者を除いた自民党の小選挙区の得票率は36%になり民主党と拮抗する。
自民党と民主党の得票率の差が10%前後の小選挙区が40区あるが、小沢党首は「200議席まではいけるだろうが、その先が難しい」と認めている。公明党との選挙協力で具体的な新しい政治体制への期待感がでなければ、民主党に勝機は生まれない。
総務省選挙関連資料:衆議院議員総選挙より民主党は必死になって混乱で生じたマイナス要素を打ち消そうとし、党分裂をギリギリのところで踏みとどまることができた。しかし、自民党関係者によれば「支持率は10%程度落ちるだろう」といわれるほど国民に与えたマイナスイメージは大きく、衆議院の解散は難しくなったという。
自民党が新テロ特措法をだしたとき、民主党は首相への問責決議案を出しにくくなった。問責決議案がでれば福田首相は衆議院を解散し総選挙になる。だが、大連立騒動により参議院選のときのような国民の支持は期待できないからだ。
民主党のトップは10日に会合を開き、衆議院総選の選挙対策本部を設置する日程を決めた。そしてイラク復興支援特別措置法廃止法案を優先させるなど正攻法の対決姿勢を確認した。その結果新たな動きがおき、局面がいきなり変わる可能性が出てきた。
民主党は正念場でいよいよ真剣に考えはじめたようだ。
[毒まんじゅうを作る怪人の「大連立を画策した筋書き」に続く]
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