2007年12月31日

デッドロックの国会と党首会談

福田総理とねじれ打開策

9月26日、福田康夫氏は総理大臣に就任する。
総裁選は反小泉、反安倍、反麻生でまとまっていたが、内閣は小泉路線の支持者と反支持者が福田氏を支持する不安定で微妙な土台の上に乗って動き出した。頼みの綱は小泉路線の支持で得た衆議院の3分の2の議席だが、安倍内閣が惨敗した夏の参院選のツケは残ったままである。

首相が安倍晋三氏から福田康夫氏に変わっても、衆参のねじれ現象で生まれた与党と野党のデッドロック状態が解消されるわけではない。しかも与党が参議院で過半数をとらない限りこれは続く。
次回2010年の参院選で改選される議席数は121議席。与党の改選議席数は自民党46、公明党11の57議席で、対する民主党の改選議席は49議席である。与党が非改選議席と合わせ過半数となるのに必要な議席は76だが、民主党は62議席を獲得すれば単独で過半数になる。与党は、2001年の小泉内閣のもとで獲得した78議席を狙えないと過半数をとれない。次回参院選がだめなら2013年までねじれ現象は続くことになる。
一方、民主党は次回衆院選で第一党になれば政権政党となることができる状況だ。

見え始めた布石

9月26日、山崎拓元副総裁は千葉市の講演で基礎年金の国庫負担の財源について、「消費税で支える以外にないので、これは大連立以外ではできない。消費税を結節点として大連立もあり得る」と、民主党との連立の可能性を語る。
10月18日、中曽根元首相は都内のホテルの講演で「ねじれ現象は少なくとも6年は続く。大連立こそが現状を打破する道だ。民主党は大連立に反対するが、何が国益かを話し合うことが必要だ」と自民党と民主党による大連立の実現を促す。さらに10月20日、新潟県湯沢町のホテルの講演で、「いずれ衆院解散、総選挙がある。その後は大連立をやるべきだ」とねじれ現象解消のための大連立の必要性を続けざまに強調した。党首会談前日の10月30日、森喜朗元首相は大阪市での講演で「日本の政治が変わるかもしれない」と語る。

しかし、サマワの陸上自衛隊の活動と比べ、重要だが地道な兵站活動はマスコミ受けしない。安倍首相が固執したテロ特措法とその論議は、期限が切れる前こそ政党間の駆け引きとして報道されたが、インド洋から補給艦「ときわ」と護衛艦「きりさめ」が帰還したあとはニュースとして登場することはほとんどなくなった。

福田首相の毒まんじゅう

10月29日、福田首相は国対委員長経由で「新テロ対策特別措置法案をはじめ、国益に関する事項で合意を得るべく話し合いたい」と申し入れ、大島理森自民党国対委員長、山岡賢次民主党国対委員長が30日午前に党首会談を2時間行うことで合意する。会談は、伊吹文明、鳩山由紀夫両幹事長と大島、山岡両国対委員長が同席し、その後両党首だけで会談する予定で決まった。
当初、小沢党首は自民党との協議には原則応じず、国会で論戦する姿勢だったが、「首相からの申し出なので受けざるを得ない」と態度を変え党首会談が実現する。この会談のため、31日に予定されていた国会での党首討論は延期となった。

10月30日午前。約2時間20分間の党首会談が行われる。冒頭10分間は伊吹文明、鳩山由紀夫両幹事長と大島、山岡両国対委員長が同席。その後、党首2人きりで45分程度会談、最後に両幹事長を交えてこの日の会談内容を確認した。
会談後、小沢党首は記者団に「年金などいろんなことについて意見交換した。解散・総選挙の話はしていない」と説明し、福田首相は記者団に対し「民主党は協力政党だと信じている。そのことを小沢氏の全身から感じた」と期待感を表明した。
最後まで党首会談の内容について、議論されたこと、合意できたことは明らかにならなかったが、両氏とも会談の結果については満足しているように見えた。

霧に包まれる党首会談

会談の内容を報道しようとマスコミはやっ気になるが、会談を行った両氏からは「政治情勢など一般的なことの意見交換」「昔話も含めたいろんな話」など、いかにも「たいした内容ではない」といわんばかりの話しか得られない。周辺から情報を集めるしかない状態だが事情通を見極めることは難しく、取材を重ねても不正確で断片的な情報しか手に入らない。

会談内容について、首相は11月1日に期限切れとなる給油活動継続の重要性を説き、新法案の今国会成立に協力を要請。これに対し、小沢党首は、一般論としての協力や良しとするが、特措法案については従来通り国連の活動の枠内でしか許されないと主張。さらに首相の、逆転国会運営のため与野党間や政府・野党間の協議機関の設置についても提案を、「原理原則があるので曲げることはできない」と拒否したと報道されたが、ニュースソースが当事者でないことは明らかで、依然、会談の内容は明らかにならない。

小沢党首は党役員会でも「新テロ法案をめぐって首相や政府与党に動揺がある」「大連立、解散総選挙、国会の会期延長など政治的話は一切なかった」と会談のあらましを説明する。しかし、自民、民主両党からは会談の目的について「45分も密室にいて世間話ではあるまい」「民主党を攻撃するための謀略か」といぶかしむ声がでて、衆院解散総選挙の時期の調整、大連立などの憶測が飛び交うこととなった。ある民主党幹部は「大連立が話題になるだけで民主党は打撃を受ける」と語り不快感を表明、別の民主党幹部は小沢党首は「大連立に向けた布石」は拒否すると語った。
福田首相も、公明党の太田昭宏代表に「解散についてはご心配なく」と伝えたが、大連立となれば存在が危うくなる公明党は密室での会談に不信感を拭えない。逆に連立相手の公明党より小沢党首との会談に重きを置いた動きをみて、何か大きな決定が行われる事態を予感させる結果となる。
しかし、福田首相が夜に記者団から「大連立も排除しないのか」と聞かれ、明確に否定せず返答をぼかしたことで大連立への可能性が信憑性を増す。

フィクサーの影、次第に

党首会談には自民、公明、民主党の与野党双方に警戒感や戸惑いがあった。30日朝に開かれた自公幹事長会談では、福田首相が剛腕小沢党首に引きずられる懸念が話題になった。同じ朝に開かれた臨時役員会では、伊吹文明幹事長が会談に至った経緯を説明し、小沢氏が特措法成立と引き換えに解散・総選挙を迫っても受けないこと、自民、民主両党の大連立を持ちかけられても乗らないことの2点について首相にクギを刺したことを明らかにする。さらに公明党の北側一雄幹事長にも「国益と特措法案に限って小沢氏と話す」と説明をする。
民主党でも会談を取りまとめた本人の山岡国対委員長が、急な党首会談開催への戸惑いを語った。

31日昼、武部勤元幹事長は選挙塾「新しい風」の例会で党首会談に関し、「与野党共通の認識で政治運営がなされる可能性が出た。大連立も考えられる」と、自民、民主両党による大連立にもあり得るとの見方を示した。
一方、町村信孝官房長官は午前の定例会見で、党首会談を受けて自民党と民主党の「大連立」の思惑が取りざたされていることについて、大連立を行っているドイツとの選挙制度を指摘。政治構造、成り立ちが違う日本で「まさかの可能性」の大連立への思惑を牽制する。公明党の北側一雄幹事長も記者会見で、党首会談でも大連立の憶測を牽制した。

産経の31日付記事に、「大連立構想の旗振り役となったのは参院選後に読売新聞の渡辺恒雄・グループ本社代表取締役会長だ。自民、民主両党の幹部らに『自民、民主で大連立を組み、憲法や社会保障改革などを一気に進めた上で中選挙区制に戻すべきだ』と力説して回ったとされる。これと連動し、中川、山崎両氏のほか、古賀誠選対委員長、武部勤元幹事長、中曽根康弘元首相らも相次いで大連立構想に言及した。渡辺氏は福田政権樹立にも一役買っており、首相も『選択肢の一つ』と考えている節がある。」と読売新聞グループ本社代表取締役会長で主筆の渡辺恒雄氏が登場する。
「政局は風雲急を告げている。同じ考えの人がそれぞれ違う党にいる。ねじれをどう解消していくか。両党首が話をして、ねじれ解消につながっていくことを切に願う」と中川秀直元幹事長が講演で意味深長に語った言葉を捉えたのも産経だった。

そして11月2日。党首会談が再び開かれることになった。
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2007年12月24日

総裁選と旧主派の台頭

「麻生クーデター説」と「福田某略説」

9月15日、総裁選がスタートし、福田氏、麻生氏とも選挙対策本部を設置し選挙運動をはじめる。フライング気味で総裁選を戦おうとした麻生陣営に対し、まず支持を決め後付けで理由を揃える格好になった福田陣営は、8つの派閥の支持を取り付けたことでかつての派閥談合による総裁選に戻ったという印象が拭えない。圧倒的に有利な福田陣営だが「圧勝ムード」を払拭するため各派幹部と連絡を取り引き締めを図る。麻生陣営は街頭演説活動を進め、県連の党員投票で民意を集め国会議員票に影響を与えようとする作戦をとる。16日には、ネットでローゼン麻生とも呼ばれる麻生氏は秋葉原に登場し、駅前ロータリーは演説開始前から盛り上がった。

17日には国会議員の213人が福田氏支持を明言した。194票が過半数の議員票で213人は圧倒的である。しかし、片山さつき氏をはじめとする福田氏を支援する若手議員が総裁選直前から流した「麻生・与謝野クーデター説」に対して18日の午後記者会見を開いた与謝野氏は「自民党の将来をかけた総裁選なので、品格のある総裁選をやってほしい。私心なく首相の意図を遂行するのが官房長官の役割。官房長官としての則を超えたことはない。心ない人の宣伝を嘆く」と不快感を示す。さらに、安倍首相自身が麻生氏の「クーデター説」を否定し、麻生氏も、10日から2度にわたって安倍首相の辞意を慰留した経過を日本記者クラブ主催の討論会で明らかにする。これにより、「クーデター説」は逆に「福田某略説」が信憑性を帯びてくる。

出馬宣言前から、町村派、津島派、丹羽・古賀派、山崎派、伊吹派、高村派、二階派、谷垣派の8派閥と69人の無派閥の圧倒的な支持を得た福田陣営だったが、伊吹派や、出馬断念に追い込まれた額賀福志郎財務相がいる津島派から麻生氏支持に態度を変える議員が出はじめる。麻生陣営は選対本部長を務めた津島派の鳩山法相、伊吹派の中川昭一元政調会長、山崎派の甘利明経済産業相、麻生氏の推薦人に名を連ねた古賀派の菅義偉前総務相が支持を得るために奔走したが、それでも福田氏支持の議員票は280票に達すると見られ、議員票だけで過半数を獲得するのは確実と思われた。

都道府県連を抑えられない党本部

両院議員総会の投票を前に、福岡県連、茨城県連が麻生氏に3票を投じることを決めるなど、候補者への支持を表明する都道府県連が現れはじめる。21日、党本部は都道府県連が持つ3票を両院議員総会の投開票前に公表することを禁止する通達をだす。これに対して一部の県連が「県連の独立を侵すもの」と反発する。
党本部に対して「県連の結果に左右されるならその国会議員が悪い」「地方から影響を与えるためにこそ公表すべき」「普通の選挙でも指示や推薦を表明するのは当たり前」と指摘する県連幹事長、県連会長も現れ反発から役員一任で麻生氏に3票を投じる県連も現れた。一方、「組織の一員として党本部の指示を遵守すべき」という京都府連、公表の是非が議論になる県連、本部から直接注意を受け事前公表を控える県連など、ゴタゴタは都道府県連に波及する。

23日午後。両院議員総会で党所属国会議員と各都道府県連代表者による投票と開票を行い、自民党総裁選は、福田康夫元官房長官が投票総数528票のうち、議員254票地方76票の330票を得て勝利する。

総裁選圧倒勝利の意味

福田氏には麻生氏に圧倒的な差を付けて勝利する必要があった。
小泉内閣の官房長官当時、表向きは年金未納で職を退いた福田氏だが、背景には帰国した拉致被害者の扱いで当時の安倍晋太郎官房副長官との対立があった。当初の北朝鮮との「約束」により拉致被害者を一旦北朝鮮に返すかどうかで、対話重視の福田官房長官の姿勢は北朝鮮よりと批判され、北朝鮮に戻すことに猛反発した安倍官房副長官の意見を小泉首相が取り上げたことは敗北であった。そして18歳も年下の安倍晋三氏は小泉内閣を引き継ぐことになる。
安倍路線の継承となる麻生氏を圧倒的な得票で叩きのめし、安倍首相の「戦後レジュームからの脱却」の否定することこそが総裁選の本当の狙いだった。

しかし大差をつけられた投票と見えるが、麻生氏が獲得した197票のうちの議員票は132票。麻生派16人以外の116票の上積みは、麻生氏への議員票を2桁に抑え麻生氏に引導を渡すと豪語していた福田陣営にとっては衝撃だった。麻生派以外の全派閥の支持を取り付け盤石の大勢で選挙に臨んだはずだったが、安倍・麻生両氏との確執は隠しおおせなかった。さらに派閥政治への警鐘を鳴らし若手議員を説いて回った麻生氏の推薦人となった古賀派の菅義偉前総務相の切り崩しにあい、100票近い議員票を福田批判票として取りこぼす結果になった。
この結果麻生氏は、この総裁選で獲得した議員票を足がかりに麻生派の拡大とポスト福田をうかがえる立場を築くことができたのである。福田康夫を第22代総裁に選出したの自民党両院議員総会終了直後、麻生氏に握手を求めに追いかけた福田氏に応えず麻生氏は演壇を降りる。

25日、第91代の首相に国会で指名され首相となった福田康夫氏は、「背水の陣内閣」と命名する。挙党態勢のイメージ作りのために、総裁選を争った麻生氏に入閣を再三要請するが拒みつづけられる。ついには首班指名の衆院本会議場を出た直後の午後1時半、すれ違った麻生氏に入閣を頼むが最後まで麻生氏は受け入れなかった。麻生氏から再任を求められた津島派の鳩山邦夫法相と山崎派の甘利明経済産業相を再任するが、これにより結果的に麻生氏の影響を受けた人事を行う形になった。そして「背水の陣内閣」は大半が留任と横滑りの人事となる。

55年体制への復古

安倍首相の突然の辞任で混乱した政局は福田氏の総裁選勝利で一段落したが、福田内閣の組閣で表に現れたものが、小泉・安倍政権の元で冷や飯を食わされていた面々が、今までの復讐でもあるかのように声高に主張を通しはじめたことである。

24日の党役員人事で、総務会長就任を古賀誠氏に求められた古賀氏は拒絶する。古賀氏が求めたポストは選挙対策委員長の新設だった。従来は幹事長の下の総務局長が幹事長の指示に従って選挙実務を行っていた。この公認権を握る総務局長役を格上げした選挙対策委員長を古賀氏は要求したのである。
小泉内閣の郵政選挙では郵政民営化に反対する議員は公認から外され、「刺客」と呼ばれた公認候補者がその選挙区に送り込まれた。安倍内閣になり郵政選挙で離島した議員の復党が始まったが、その結果同じ選挙区に自民党議員が2名存在する事態になった。そのどちらを公認するか、議員としての生命与奪を決定するポストを古賀氏は要求したのである。
福田首相を譲歩させた古賀氏はいい気分で「国民が求めるタイプの首相が誕生した」と持ち上げたが、福田首相が行う年明けの内閣改造でも押し切ることができれば、イニシアチブは旧主派が握ることができるのである。

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2007年12月16日

大連立の破談と首相辞任

安倍首相辞任劇の2つのトリガー

安倍首相の辞任に、週刊現代の「相続税脱税疑惑」の記事と、「党首会談を呼びかけた民主党小沢代表から会談を断られた」というの背景がある。公式の辞意表明は、党首会談が破談になったことを伝えた自民党国対委員長大島理森氏に対してのものだ。

「相続税脱税疑惑」の記事は安倍晋三事務所の素早い対応により、マスメディアの話題から遠ざけることができた。
もう一つのトリガー、辞任を思い込むほどの党首会談の破談とはどのような内容だったのだろう。
安倍首相の頭から離れなかった事案は、11月1日に期限切れとなるテロ特措法だった。しかし、テロ特措法の延長もしくは新テロ特措法の成立を民主党が認めるはずはない。方法があるとすれば、民主党を与党に取り込むこと、すなわち大連立である。
11月初めの大連立騒動で小沢党首がぐらついたように、大連立は小沢党首をなびかせる甘い罠で、フィクサーは8月に民主党の幹部に大連立の打診をしている。そのとき得た手応えで小沢党首へのアプローチが有効と判断して安倍首相に大連立を提案し、安倍首相がそれに最後の希望をかけたとしたらどうだろう。
だが、風前の灯の安倍内閣なら解散衆院選挙で勝算ありとみた小沢党首は、はなから話にのらなかった。

安倍から福田の急展開の裏に

ここで注目すべきは安倍首相辞任から福田擁立までのすばやい展開である。
フィクサーは、パリにいる森元首相への電話から逆算すると、安倍首相の辞任から7時間半以内に福田氏擁立を取り付けているのである。フィクサーといえども与党の自民党総裁、次期首相候補の情報を集め調整し半日で後継者を擁立するなどということは容易ではない。しかも、電話の内容からは、古賀派、津島派、町村派の幹部クラスの調整ができていることをうかがい知ることができる。
政治家が黙って説得を聞き、そのまま諸手をあげて賛成するなどはありえない。各派閥の領袖、首相経験者に状況を説明をし懐柔するにはそれなりの時間がかかるのは当然である。しかも国会開催中だとはいえ、森元首相のように東京を離れている議員には電話で話をつけなければならない。
しかし、福田氏擁立の大局は12日の午後の間に決まった。13日は党内で最終的な調整を行ったにすぎない。

安倍首相辞任の前に、フィクサーと自民党幹部との間でネゴシエーションが進んでいたとしたらどうだろう。重要なテーマのために会談と電話でのやり取りが密接に行われていれば、連絡を取り合うのに躊躇はいらない。お互いが連絡を待っているからである。では、自民党の重要な幹部に持ちかけ密接に連絡を取り合わなければならない話題とはなんだろう。
安倍首相が辞任の意思を決定的にした党首会談の内容、大連立以上に密接な連絡をとりあう必要がある事案があっただろうか。
当時、大連立構想がフィクサーと自民党幹部との間で進んでいたのであれば、福田氏擁立に関するフィクサーの調整は挨拶抜きで行える状況である。

小泉-安倍-麻生路線と反小泉

12日、麻生太郎幹事長ら執行部が主導して固めた19日投開票案に基づき、総裁選管理委員会が14日公示、19日投票の日程を示す。これに関して、麻生氏が自分の都合に良いように総裁選のスタート時期を設定したとの批判が相次ぐ。さらに党内に安倍首相退陣に関する連帯責任を指摘する声もでて、先行逃げ切りを図る麻生氏への支持は広がりにくい情勢になった。

2006年の総裁選で小泉路線の継承に反対し福田元官房長官を推した中堅ベテランの勢力が、今回も福田氏擁立について動き出す。福田氏が所属する町村派、古賀派、津島派も派内の結束を確認するが具体的な方向は表にはださなかった。一方、前回の総裁選で立候補した谷垣禎一元財務相は派閥の緊急総会のあと「政権転換が必要だ」と麻生氏以外の候補者の擁立を明確にする。

13日付けの各紙は、「麻生幹事長が安倍首相から辞意を最初に聞かされたのは、10日夕の自民党役員会後だった」、さらに「11日昼に官邸で行われた政府与党連絡会議後、首相は再び辞意を漏らした」ことを報じる。午前中の臨時総務会で、14日公示、19日投票の総裁選日程が出されるが反対が相次ぎ、結局午後には投票日を25日にする方向に変わる。短期決戦で総裁選を有利に進めようとした麻生氏に対して、ベテラン議員から「麻生幹事長は2日前に知っていてなぜ辞任を止められなかったのか」と批判が飛び出すなど、一気に反麻生の動きが巻き起こる。

額賀財務相は津島派の総会でいち早く立候補の意向を示したが、同じ派閥の青木幹雄前参院議員会長は距離を置き、額賀氏の地元茨城県連も前回総裁選の麻生氏支持を変えない。谷垣禎一元財務相は谷垣派15人では立候補に必要な推薦人20人に届かないとみて態度を保留する。
町村派では福田元官房長官を推す声がある一方、会長の町村外相を推す声も出た。しかし最後は森元首相が福田氏擁立をまとめる。古賀派も福田氏支持の方向を決め、額賀財務相が出馬を表明した津島派でも青木幹雄前参院議員会長が福田氏支持を決め、参院議員を中心に福田氏支持が広がる。一方、小泉チルドレンを中心とした若手議員から出馬を求められていた小泉元首相は、不出馬と福田氏支持を明言する。
そして、福田氏は町村派会長の町村氏、森元首相と自民党本部で会談し立候補の決意を伝える。麻生氏は記者会見で立候補を表明する意向を示した。

14日、総裁選の告示が行われ、麻生氏、福田氏が立候補を正式表明する。前日、立候補の意向を示した額賀財務相は、派内をまとめきれずに立候補を断念した。
福田氏は、党本部で谷垣禎一元財務相、古賀誠、山崎拓両元幹事長と会談し推薦を依頼、さらに伊吹文部科学相と会い協力を要請する。丹羽・古賀派、伊吹派、谷垣派、高村派は臨時総会を開き福田氏を支持する。さらに福田氏への支持は山崎派、二階派にも広がった。

総裁選は、衆院304人、参院83人の各1票と、都道府県連の各3票の計528票で争われる。
福田氏支持を表明しているのは、町村派(80人)、津島派(67人)、丹羽・古賀派(46人)、山崎派(38人)、伊吹派(25人)、谷垣派(15人)で合計は271人。すべて福田氏支持なら国会議員だけでも過半数となる。伊吹派では何人かが麻生氏支持にまわることを黙認、津島派、丹羽・古賀派でも一部が麻生氏支持に回ると見られるが、福田氏支持は二階派(16人)、高村派(15人)にも広がり優位は揺るぎないものとなった。しかし、渡辺金融相が記者会見で派閥談合による総裁選出を批判するなど、古い自民党の論理による派閥政治への批判も出はじめた。

麻生太郎幹事長は党本部での記者会見で、「候補者が政策発表する前に、派閥推薦が決まるような状態は、派閥レベルの談合密室だとの批判を受けることになる」と述べ、ほとんどの派閥が福田康夫元官房長官の支持を決めたことを批判する。津島派では鳩山邦夫法相が麻生氏を支持し麻生陣営の選対本部長を務めることになる。

15日午前。自民党総裁選の立候補届け出が受け付けられ、福福田康夫元官房長官(71才)と麻生太郎幹事長(66才)が届け出た。

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2007年12月8日

安倍がだめなら福田があるさ

辞任 もうひとつの背景 ---「週刊現代」

12日の夜23時52分に時事通信が「週刊現代の取材に警告 相続税めぐり安倍事務所」という記事を流す。記事の内容は、安倍晋三事務所が講談社発行の週刊誌「週刊現代」から「首相が相続税の支払いを免れた疑いがある」と取材を受けたこと、安倍晋三事務所が「週刊現代に掲載予定の記事はまったく事実に反する。掲載しないよう警告する」とする文書を発表したというものである。

時事通信のニュースとほぼ同時に、安倍晋三事務所から「報道機関各位」向けにファックスが流された。内容は、毎日新聞の12日付夕刊(4版)の、「『脱税疑惑』取材進む」という見出しの「週刊現代が首相の政治団体を利用した『脱税疑惑』を追求する取材を進めていた」という記事により、「安倍首相が脱税疑惑により辞任をしたいう印象を与えている、週刊現代の記事は誤りであり、週刊現代の記事を引用、紹介したら法的処置を取る」という意思を示したものだ。

安倍晋三事務所が発した警告は、週刊現代が出した取材依頼書の「故安倍晋太郎氏から安倍晋三首相への政治遺産の継承で浮上した政治資金と税金に関する疑問点についてお尋ねたい」という質問がトリガーになった。直裁に言えば、「故安倍晋太郎氏から安倍晋三氏への相続にあたり、政治団体をつかって税金逃れを行い相続税3億円を脱税したのではないか」という内容である。

記事が載る週刊現代の発売は9月15日だが、編集途中の記事について報道機関に警告書を出すほど、安倍事務所にとっては重要な問題であったということである。
安倍晋太郎が死んだのは1991年。すでに相続税に関する時効7年は過ぎ時効が成立している。しかし、合法とはいえ政治資金の問題で何人もの閣僚を更迭している安倍内閣で、内閣総理大臣本人が責めを負わずにすまされる問題ではない。
しかし、「報道機関各位」向けのファックスにより、毎日新聞に続こうとした報道機関は浮き足立ち、以後の報道を差し控えることになった。「『週刊現代』に関わってみろ。 一生後悔させてやるぞ!」という安倍晋三事務所の脅しは見事に功を奏したのである。


辞任ニュースは瞬時に過去

理由は何であれ、安倍首相が辞任した後の動きは眼を見張るほどの展開を見せる。
安倍が辞任した9月12日午後2時の2時間後には、古賀元幹事長が福田元官房長官に支援を表明した。
同じ日、パリにいた森元首相は、津島派の青木幹雄前参院議員会長に電話する。青木氏は「福田さんはどうかね。あんたも早く日本に帰ってきなさい」と森氏に答えた。そしてフィクサーから森元首相に「すでに山崎や古賀、青木幹雄は福田支持でまとまっている。残るはあなたの仕事は派内の調整だけだ」と国際電話がかかる。
パリから東京への所要時間は約12時間。東京着9時20分のエールフランスAF276便に乗るなら現地の出発は午後1時20分。フランスと日本の時差は8時間だから、日本時間で12日の午後9時20分に相当する。

麻生氏は10日から安倍首相の辞任を感じていただろうが、官邸で首相に近い与謝野氏、麻生氏と、渡辺恒雄氏とは流れが異なるので、渡辺氏へのリークはこの筋からではないだろう。民主党から党首会談を断られたあと、自民党国会対策委員会の幹部から中川元幹事長など自民党幹部に連絡が行われ、そのまま渡辺氏の知るところになったというほうが自然である。
いずれにせよ福田氏擁立の大勢は、安倍首相が辞任を決めた正午過ぎから森元首相がパリを発つ12日午後9時20分までに決まったということになる。

9月13日の朝、キングメーカーを自認する森元首相は東京に戻り、青木幹雄氏、山崎拓元幹事長とひそかに会談し福田氏擁立を確認する。森元首相の気がかりは、小泉チルドレンが担ぎだそうとする小泉純一郎元首相の再登板と、町村派領袖の町村信孝外相だった。62才の町村外相と会った森元首相は、「エースを温存する」というくどき文句で町村外相を説得する。これを受け、町村外相は福田氏擁立のため町村派の準備を幹部に指示する。昼まで町村信孝氏の擁立を考えていた町村派内では、夜になって福田氏擁立を知り、中堅議員でさえ「昼間まで町村擁立だったのに、いつの間に入れ替わったんだ」と驚いたほどの展開になった。
ねじれ現象に賞賛なしと見る小泉元首相は早々に出馬辞退を宣言し福田支援を表明する。あわよくばと総裁の座を狙おうとした額賀福志郎財務相も周囲に突き放され、早々と出馬を撤回する。

一方、総裁選レースのスタートで飛び出し先行したと思われた麻生幹事長は、一夜にして状況が急変したことを知る。早すぎた態度表明が裏目になり、麻生幹事長が安倍首相を追い込んだという「麻生クーデター説」まで流布されることになった。クーデター説は「辞意は10日に麻生幹事長に話した」と語った安倍首相自身によって打ち消されたが、麻生悪玉説はしばらく消えず、福田元官房長官の総裁選の勝利は完璧なお膳だてができた。

しかし、麻生クーデター説は、後々それを煽った福田陣営に影響を及ぼすことになる。

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2007年12月2日

大連立は9月に一度失敗していた

連立の布石はつぎつぎと打たれた

参院選の前の7月22日、民主党の小沢一郎代表は民放テレビの番組で大連立について、「参院選で与党を過半数割れに追い込んでも、自民党との大連立はあり得ない」と否定した。

7月29日。参院選で与党は自民公明あわせ105議席と惨敗する。民主党は改選非改選議席を合わせ単独で過半数を越える109議席となった。

読売新聞の社説「大連立 民主党も『政権責任』を分担せよ」が掲載されたのは8月16日のことである。ねじれにより国政は長期にわたり混迷する、国政の危機を打開するために自民民主は大連立を組めと檄を飛ばすこの社説で、大連立のシナリオが動き出した。

8月21日、自民党中川秀直幹事長が、「よりよい日本をつくるための改革を考えて与野党が歩み寄ることが(参院選の)民意に応える道だ。謙虚に考えるべきだ」と自民、民主両党の大連立について記者会見で語った。
奇しくもこの日、渡辺恒雄氏は民主党の鳩山由紀夫幹事長と会談する。大連立構想と中選挙区制度の復活を提案したが、鳩山由紀夫幹事長はこれを断った。
鳩山幹事長は党本部で中川幹事長の発言に関する記者団の質問に答えとして、「自民党が参院選で惨敗したから大連立だとの発想には傾かない。選挙で国民の期待をもらったが、『自民党と連立しろ』との発想ではない」と述べて記事となった。

次いで8月22日、渡辺恒雄氏は大連立の仲介者として民主党の小沢一郎代表と会談するが、小沢代表も大連立を否定する。

8月31日、ロイターなどとのインタビューで二階俊博自民党総務会長が「(大連立のために)漠然とした連立・連携を深める努力が必要ではないか。そういうことの積み重ねで、ここまできたら大連立という雰囲気になればいける。基本的には連立を組めれば組んでいきたい」と語った。

9月8日、中曽根康弘元首相と渡辺恒雄氏がTBS番組の収録をする。中曽根氏は「テロ特措法は大連立に持っていくいいチャンス。大連立は民主党が将来政権をとるのにも役立つ」と述べ、渡辺恒雄氏も「(大連立)は野党を含め賛成論のほうが多い。大連立ができる可能性はかなりある」と語った。

政変劇でフィクサー暗躍

9月12日、安倍晋三首相が「小沢代表に党首会談を申し入れたが断られた。党首会談が実現しなければ、私が約束したことが実現しない。残ることが障害となると判断した」として辞任表明をする。
小沢氏は党本部で緊急記者会見し、首相の辞任理由の一つのテロ特措法にふれ、「自民党の政権交代劇で、われわれの考え方が変わることはあり得ない」と、継続反対の方針を変えないことを強調した。これを報じた産経の記事には、民主党幹部の話として「(民主党参加の)大連立はあり得ない。次は暫定内閣だから、(衆院解散で)早期に民意を問うべきだ」という発言がついていた。


9月8日からのシドニーのAPECで安倍首相は体調崩しながらも、精力的に外交を進めた。
ブッシュ大統領、ハワード豪首相との朝食会をはじめ、胡錦濤中国国家主席、プーチン露大統領、ブッシュ大統領との会談など、APECという場を効果的に利用し各国との関係を深めたのだ。
外交舞台は安倍晋三首相にとってなじみの場所である。安倍首相は、父安倍晋太郎の外務大臣時代に秘書官として各国の首脳との折衝をつぶさに接し、頭と体に「外交」が刻み込まれている。
首相就任の直後の10月の訪中では、温家宝総理、胡錦濤国家主席、呉邦国全人代委員長との会談を気後れすることなく進め首相としての力量を示した。もちろんこれは、得意の外交という土俵で実績を上げ、以後の政局を有利に進めようとする布石だった。

APECを去る前の9月9日、安倍首相はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のシドニー市内のホテルの記者会見で給油活動の継続を「私のすべての力を振り絞って職責を果たしていかなければならない。職責にしがみつくことはない」と強調して、インド洋での給油活動が11月1日以降も継続できなければ総辞職する可能性を述べ強気な姿勢を示した。同時に、民主党の主張を取り込んだ新たな法案の検討を表明し、民主党小沢代表に党首会談を呼びかけた。
日本に戻ればテロ特措法成立の壁が達成不可能な障壁として大きく立ちはだかることになる。
外交舞台で得たエネルギーをかき集めたこの発言は、灯火が消える前の最後の輝きとなった。

9月10日午前6時、安倍首相はシドニーのAPECから帰国する。そして午後の衆議院本会議で所信表明演説に臨み続投の決意を述べたが、参院本会議では原稿の北海道洞爺湖サミットのくだり二行分読み飛ばすという失態を演じた。さらに演説のあと退席するはずだったが安倍首相は首相席に座ったまま動かない。野党からのヤジが飛び、参院の事務次長に促されてようやく席を立った。
その後安倍は自民党役員会に出席したが、「申し訳ありません」とうなだれ気力が失せていた。

安倍首相の小事にこだわる神経質な気質は就任直後から見られたものだ。2006年秋の最初の国会答弁で棒読みを非難されたとき、意気消沈した安倍首相は「おれも最初はそう言われた。めげないで同じことを続けろ」と小泉前首相に慰めてもらっている。さらに、答弁でだんだん早口になり周囲の反応が気になることを塩崎官房長官などの側近に漏らしていた。
党役員会後、国会内の総理大臣室で麻生麻生幹事長に会った安倍首相は、麻生氏に辞意を使えるが麻生幹事長は「このタイミングが悪い。テロ特措法は先の話だ」と慰留した。

9月12日、午前十時から代表質問の準備をしていた安倍首相に、正午過ぎ、前日から党首会談を呼びかけていた民主党小沢代表から会談を断られたと、自民党国対委員長大島理森氏が伝える。大島国対委員長を呼んだ安倍首相はその場で辞意を表明、これを請けた自民党国会対策委員会の幹部は急ぎ野党側に「首相が辞意を漏らしている」として本会議の延期を要請する。そして午後2時、安倍首相は国民に対して首相官邸の記者会見で、政権運営が完全に行き詰まったことを理由に辞任を表明した。
参議院選の歴史的大敗の1ヶ月半後、所信表明演説から2日後のことである。

<続く>
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2007年11月24日

踏んだり蹴ったりの安倍内閣

ボロボロの安倍内閣 --- 松岡農林水産相編

2007年は元旦から松岡農林水産相の秘書が、出資法違反容疑で福岡県警の家宅捜索を受けたエフ社の関連団体WBEFのNPO法人申請をめぐって、審査状況を内閣府に照会をしていたことが明らかになる。WBEFからパーティー券代100万円を受け取ったが政治資金報告書に記載していないことが発覚した2006年9月、松岡氏本人も事務所も「WBEFの関係者に接触したことはない」と説明していた。しかし1月5日、事務所がWBEFの依頼で内閣府に照会を行ったことを松岡氏自身が自ら認めた。
さらに1月10日、松岡農林水産相の家賃無料の議員宿舎を事務所として、資金管理団体が年間約2500万〜3300万円を事務所費を計上していた疑惑がでる。
続いて伊吹文部科学相の二つの政治団体も事務所経費の付け替えなどの「不適切な会計処理」が発覚、さらに1月27日、柳沢厚生労働相が「女性は子どもを産む機械」と発言し安倍内閣は対応に追われた。

松岡松岡農林水産相の事務所費問題は3月になっても消えず「ナントカ還元水」などでくすぶり続ける。さらに4月には、農林水産省所管の独立行政法人「緑資源機構」の林道整備をめぐる官製談合の渦中の企業や団体が、10年間にわたって松岡松岡農林水産相の資金管理団体に献金していたことが発覚する。
東京地検特捜部により「緑資源機構」の官製談合の捜査が進む5月28日、衆議院赤坂議員宿舎1102号室で、松岡利勝農林水産相は自殺した。

ボロボロの安倍内閣 --- 「宙に浮いた年金記録」編

4月3日、社保庁が「宙に浮いた年金記録5000万件」を認めた。消えた年金納付記録を昨年来追求し続けてきた民主党長妻昭議員の質問に応えたものである。
しかしその後も、社保庁、厚生労働省とも問題の対応を明確にせず、国民の不安と怒りは一気に増大する。多くの国民が自分の年金の納入状況を社会保険事務所で確認しようとしたため、社保事務所は対応に追われつづけ、テレビ、新聞も連日を報道を続けた。
しかし安倍首相は年金問題の重大さを認識せず、対応は後手にまわり火消しに追われることになる。

ボロボロの安倍内閣 --- 久間防衛相編

参院選の一ヶ月前の6月30日。久間章生防衛相が「原爆投下はしょうがなかった」と発言する。久間防衛相は、2006年12月参議院外交防衛委員会での「私でも沖縄を最初に占領」発言をはじめ、1月には米政府のイラク戦について大統領の開戦判断が間違いと批判、4月の長崎市長銃撃事件の際は「補充立候補する公職選挙法を見直し」と「補充がきかないと共産党の市長が誕生する」と発言したがいずれも安倍首相は容認していた。しかし、長崎の参院自民候補小嶺陣営では、久間防衛相と握手しているポスターを大わらわではがす騒ぎになり、党内でも厳しい意見が相次いだ。三人目の閣僚交代を躊躇する安倍首相だったが、ついに押さえきれず久間防衛相の更迭を決める。久間防衛相更迭と小池百合子新防衛相誕生の手際の良さとスマートさは小泉前首相のシナリオである。

ボロボロの安倍内閣 --- 赤城徳彦農水相編

この騒ぎがおさまらぬうちの7月7日、「政治とカネ」の松岡利勝農水相の後任の赤城徳彦農水相に、実家を後援会事務所にした事務所費問題が発覚する。しかし、だめ押しの「四人目の閣僚交代」を気にする安倍首相は更迭に踏み切れない。「法律にのっとって適切に報告している」などと容認する発言を繰り返し、「問題閣僚をかばっている」との批判を浴びる。
さらに10日後の7月17日、赤城農水相は顔に大きな絆創膏を張って登場し、「大したことはありません」とかたくなに理由を述べず、疑惑をますます呼び寄せる結果となった。ついで参院選2日前の7月27日、最悪のタイミングで赤城農水相後援会の郵便代の二重計上が発覚し、選挙直前に自民党への不信は最高潮に達する。しかし安倍首相は何も行動を起こそうとしなかった。

全敗王子 --- 安倍晋三

「年金問題」と相次ぐ「政治とカネ」の逆風のなかの7月29日。参院選で自民党は歴史的惨敗をする。中川幹事長、青木参院議員会長は即日辞任するが、安倍首相は「再チャレンジ」の続投宣言をする。これに対し自民党の派閥領袖から、支持する声が相次いで出る。自民党に潰すに潰せない大赤字会社と同じ内情がうかがえる。
しかし、31日午前の自民党総務会ではベテラン議員から公然と首相の責任を問う発言が相次ぎ、赤城農水相の辞任を要求される。初めからさして強力でなかった安倍首相の求心力は急激に消え始め、8月1日ついに安倍首相は赤城農水相を更迭した。

安倍内閣では、問題を起こした閣僚を官邸に呼んで注意しても官邸を無視するような行動が止まらない。外務省をコントロールできない田中眞紀子氏をすぐさま更迭し、田中氏が泣こうがわめこうが相手にしなかった小泉首相とは大違いで、「原爆投下しょうがない」で注意を受けた後「関係ない」と笑う久間防衛相、絆創膏を問い質されても「心配いりません」と繰り返すだけの赤城農水相など、緊張感のない、立ち往生常習の安倍内閣の足下をみすかした行動は、学級崩壊にも似ていた。

8月20日、「お友達」の塩崎官房長官が代表の自民党支部で、政治資金の私的流用を隠すため領収書を二重添付していたことが発覚する。これにより党内で批判の的だった塩崎官房長官が改造人事で閣内にとどまることは難しくなった。

そして内閣改造である。
インドなどの歴訪を終えて帰国した安倍首相は、25日夜から27日の内閣改造まで、改造人事と自民党役員人事のために与党幹部らと会わない意向を示した。しかしキングメーカーに執着する森元首相は党内実力者と密談を重ね人選を進める。一方、安倍首相が気にしたのは「脱小泉」「福田への流れ阻止」「反安倍連合の分断」と「政治とカネ」のスキャンダルだった。党役員人事は別として、閣僚候補の政治資金収支報告書を徹底的に調査し、安全が確認できた上での人事をすすめる。いきおい資金に困らず姑息な錬金術に頼らなくてすむ大物議員が選ばれることになった。そして8月27日、「着実に『美しい国づくり』に向けて政策実行する『政策実行内閣』」が誕生する。

第一次安倍内閣が「政治とカネ」で叩かれつづけ、「事務所費怖い」が染み付いた安倍首相は内閣改造後、政治とカネの問題について「閣僚は何か指摘されれば、説明をしてもらう。十分な説明ができなければ、去っていただく覚悟で閣僚になってもらう」と、打って変わる厳しい姿勢を見せる。
 しかし、閣僚候補らの「身体検査」を万全にして臨んだはずの改造内閣でも、「政治とカネ」でつまずく。
内閣改造から1週間後の9月3日、補助金の不正請求が明らかになり遠藤武彦農水相が辞任。坂本由紀子外務政務官も関連政治団体の経費の多重計上で辞任する。身辺調査を十分に行ったはずの閣僚人事で安倍首相の危機管理能力の不手際がさらに印象づけられる出来事になった。

[「続く]
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2007年11月19日

大連立を画策した筋書きとは

11月に突如駆け巡った大連立騒動だがこのシナリオは2ヶ月半前から書かれていた。

参院選でシナリオは加筆された

閣僚の政治団体の多額の事務所費問題、補助金の不正受給などの「政治とカネ」と相次ぐ失言で下降を続けた安倍内閣の支持率は、7月初旬の32%からさらに下がり選挙前の18日には支持率は27.9%、不支持率は51.7%になった。特に古くからの自民党の支持基盤である本州北部、四国、九州で支持率の低下が目立っていた。(読売新聞世論調査)
そして29日の参院選で、選挙前改選議席の134議席の与党は、自民党37議席(改選前64議席)、公明党9議席(改選前12議席)の105議席と惨敗する。
民主党は60議席(改選前32議席)を得て、結党以来最大の109議席となったのだ。

この選挙は今までの選挙戦術の転換を迫る新たな時代の到来を自民党に突きつけた。
比例区で農協が推す新人の山田俊男氏、歯科医師会の新人石井みどり氏、建設業界が推す佐藤信秋氏が当選したが、医師会に君臨し天皇・ケンカ太郎と言われた武見太郎の長男で前職の武見敬三氏、土地改良団体の組織票を固めようとした前職の段本幸男氏、薬剤師団体が推す前職の藤井基之氏、運輸団体が推す前職藤野公孝氏、看護団体の松原まなみ氏、建設族の元職上野公成氏、農協が推したもう1人の福島啓史郎氏、漁協の丸一芳訓氏が相ついで落選し、業界団体を背景にした旧来の集票システムの破綻を印象づけたのである。

比例区トップ当選の舛添要一氏も得票は470,571票と前回2001年の1,588,262票から激減、さらに岡山選挙区では参院幹事長だった片山虎之助が、民主党の新人姫井由美子氏に約48,000票の大差をつけられて落選し衝撃が走った。
2004年の参議院選の1人区では自民民主両党の戦いは互角だったが、今回自民は四国の4議席、東北1人区の4議席をすべて落とすなど 6勝23敗と大幅に後退し歴史的大敗となった。民主党は、17同県で40%を超える得票率を得て、いままで強かった都市部だけでなく地方でも着実に力をつけてきたことをうかがわせた。

当然ながら参院選の敗北で、党首の安倍首相の責任を問う声が出た。
首相は責任を認めたものの早々と続投を表明する。党内では公然と首相への辞任要求がでたが、安倍首相は30日には公明党の太田昭宏代表との与党党首会談で連立の維持を確認。さらに内閣改造、党役員人事の刷新を表明する。
さっそく、閣僚ゼロの谷垣派の谷垣禎一前財務相が、「党全体がバラバラではだめ。力を合わせていく態勢をどうつくるかだ」など、反安倍勢力は閣僚、党役員の要職入りを期待し退陣論は沈静化に向かった。

シナリオライターが自ら演出

そして8月16日。読売新聞の社説に「大連立 民主党も『政権責任』を分担せよ」が掲載された。(中川秀直公式Webサイトより)
社説の要旨は以下である。

 ・参院の与野党逆転で法案通過には民主党の賛成か衆院再可決しかない。
 ・自民は衆院再可決を簡単には使えない。
 ・自民の予算関連法案が成立しないと国民生活に重大な影響が出る。
 ・解散総選挙で自民が勝っても衆参のねじれは解消しない。
 ・自民が3年後に参院選でねじれを解消するのは難しい。6年後でも難しいだろう。
 ・ねじれがあれば国政は長期にわたり混迷する。
 ・混迷打破は参院の与党民主党に「政権責任」を分担してもらうしかない。
 ・民主は「大連立」政権に参加しろ。

 ・自民は政権参加を民社党に呼びかけろ。
 ・民社にとってもねじれ状態は負担である。
 ・政府与党に対決、揺さぶるだけでは政権担当能力を問われる。
 ・自民が提示する国益を考えれば妥協が必要な場合がでる。
 ・国益にとって必要な妥協をしないで国政が混乱すれば民主のせいだ。

 ・大連立すれば自民が考える社会保障制度の立て直しも少子化対策も進められる。
 ・それに必要な財源が消費税率の引き上げだ。
 ・自民民主が大連立すればそれができるようになる。

 ・自民と安全保障や外交などの主張の差があるなら政策協定すればいい。
 ・民主が政策協定するならほかの党も政権に参加させてやってもよい。

 ・テロ特措法の期限延長問題も国会でなく政権内部の協議でやればいい。
 ・ミサイル防衛、米軍再編問題も同じだ。
 ・外交、安保は両党に大きな差はない。
 ・社会保障政策も両党に大きな差はない。
 ・自民の税制抜本改革論議に民主が参加すれば消費税率引き上げも進めやすい。

 ・ドイツではキリスト教民主同盟と社会民主党の大連立ができた。
 ・大連立しても第2党の存在が薄くなるわけではない。だから民主の存在感は残る。
 ・大連立のおかげでメルケル政権は付加価値税(消費税)を3%アップして19%にできた。

 ・大連立して政権内部で議論が加熱するのは国会審議の停滞より効率的だ。
 ・秋の臨時国会でぶつかり合うより、早急に大連立しろ。

シナリオは役者に渡されていた

読売新聞の社説に応え、自民党の中川秀直幹事長が8月21日の記者会見で大連立に言及した。
時事通信が8月に行った世論調査「望む政権の形は」をもとに「、民意は、小沢氏の政権交代による非自民連立政権を望まず、自民中軸の政権を50・2%が望んでいるということである」とブログに書いたことを明らかにし、「よりよい日本をつくるための改革を考えて与野党が歩み寄ることが民意に応える道だ。謙虚に考えるべきだ」と、大連立への道をさし示したのだ。(産経)
また「読売以外のマスコミはどうか。これまでマスコミは大連立には否定的であったように思われる。マスコミの大局観が問われている。マスコミが動かなければ民主党も動かないだろう」と社説を援護し世論を盛り上げようとした。

民主党鳩山由紀夫幹事長は同日これに言及し「自民党が参院選で惨敗したから大連立だとの発想には傾かない。選挙で国民の期待をもらったが、『自民党と連立しろ』との発想ではない」と実現の可能性を否定した。

この前後、自民党幹部からは大連立に関する発言が相次いでいた。
山崎拓元副総裁(当時)は参院選前の7月24日、福岡の講演で憲法改正問題をめぐり「自民、民主で大連立を組む以外にない」と発言。武部勤前幹事長も8月23日、「日本がつぶれたらどうにもならない。最後は国家、国民が第一。そのためには、大連立だって結構だ」と都内の講演で語った。二階俊博総務会長(当時)も8月31日の報道各社のインタビューで「知恵のひとつに大連立構想はある。連立を組めれば組んでいきたい」と述べている。
9月7日には中曽根康弘元首相がTBS番組の収録で「(11月1日に期限切れの)テロ特措法は内閣の死命を制する重大問題。特措法で大連立すれば、民主党が将来政権をとるよいチャンスだ。党首会談をやり協力する癖をつけて成就させるべきだ」と語った。

一方、公明党の太田代表は8月24日、ラジオ番組で「「中選挙区制にすることが非常に大事なことだ。小選挙区制は政権交代を可能にするというが大衆迎合になる」と、連立を行いやすい体制作りを語ったが、一方で民主党との大連立については「現時点ではない。自公連立であくまでいこうということは固まっている」としている。

そして安倍首相は歴史的大敗の1ヶ月半後、所信表明演説から2日後の9月12日、代表質問の1時間前に退陣表明をする。

その後続く自民党総裁選では、シナリオどころかキャストまで決まっていたのである。

[「大連立は9月に一度失敗していた」に続く]
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2007年11月11日

「大連立」は、民主と公明

政治は駆け引きと陰謀

党首会談を行うと決まった時から「政治の駆け引き」がはじまった。

福田康夫首相側の最大のミッションの一つは自民党政権を維持することである。
自民党にとって参議院で惨敗し法案成立が望めない現状では、何が起きてもいまより悪い事態になることはない。

参議院で力を得た民主党の勢いが衆議院にまで及んだら政権から離れなくてはならない。
命題の一つは重要法案を成立させること、もう一つは、最低でも衆議院での多数を維持するということだ。仮に、次回総選挙で圧倒的な議席を確保できれば、「国民の選択」を直近の民意として参院民主党に詰め寄ることも可能になる。

命題を解決する方法としては、
 ・プランA:自民党の支持を増やし影響力をあげる。
 ・プランB:民主党の力を弱くする。
 ・プランC:民主党もしくはその一部を自民党に吸収する。
が考えられる。

プランAは、最近の潮流から考えると短時間で劇的な改善はできず、次回の衆院選挙までに間に合いそうもない。
プランBは、敵失を起こすことである。民主党内のいがみ合い、ゴタゴタ、スキャンダルなどマイナス点を増やし人気を落とす方法がある。
プランCは、大連立か民主党の分裂である。参議院で民主党から17人以上自民党に移れば、与党が多数になりねじれが解消されるのだ。

福田首相に持ち込まれた「党首会談」は、プランB、プランCを共に行える名案である。
自民党にすれば、何もしなければ現状は変わらないが、民主党を揺さぶれば現状打開に結びつく動きが生まれるかもしれない。
党首会談で、民主党内で賛否が別れてしこりが残るような問題、国会運営など個別テーマでない大きな話、例えば連立や分党の誘い、密約などの話題を持ちかければ民主党が歩み寄るかもしれない。それがだめでも、小沢党首の対応に対して不信感が生じ反発を起こせるかもしれない。うまく行けば党が割れ、小沢党首本人または若手の分裂の動きになるかもしれない。分裂まで進めば自民党に吸収もしくは連立ができる可能性もある。分裂にならなくても問題を党に持ち帰りゴタゴタすれば、世間の評価を下げることができる。
福田首相がこれを実行するための「毒まんじゅう」を作るのは極めて簡単だったのである。

そして小沢一郎民主党代表は「毒まんじゅう」を食べてしまった。

福田首相が出した「毒まんじゅう」

「毒まんじゅう」フルコースの口当たりの良い前菜は、「自衛隊海外派遣の恒久法制定」への政府の大転換、メインディッシュは「両党の連立、新しい協力態勢の確立」だった。年金問題、少子化対策、農業再生など「マニフェストに掲げた政策の具現化」などは、小沢氏自らが調理したスープで、「次回衆議院総選挙での議席倍増に民主党は力不足」はスパイスだったろうか。
常々「政党なんてのは政策の手段に過ぎない」と口にしている小沢氏にとって、政策実現への千載一遇のチャンスと見えたのかもしれない。

「そういう話も出たが、聞かなかったことにしますと答えた。こういうことは密室ではまずい」とでも言えば逃げられたかも知れないが、小沢党首にとっての恒久法制定は旧自由党時代からの「年来の主張」であり、小泉首相の郵政改革と同様な存在だったのだろう。福田首相の提案にさまざまな可能性を見いだし、真面目に党に持ち帰ってしまった。しかしこれは後だから言える話である。場の進み方、意思のぶつかり合いで流れが決まる会談では、当事者にしかわからないことがあるものだ。

だが持ち帰った党の役員会で拒否され、小沢氏の進退は極まった。
話題を投げ込まれただけで意見が分裂し、いがみ合いが起き収拾がつかなくなる状況は珍しいものではなく、小沢氏がそれを知らないはずがない。しかし、小沢氏は策にはまってしまった。その、歯がゆさといらだちもトリガーになり、辞任の意思を固めたのではないだろうか。

今回の大連立騒動では、自民党自身も毒まんじゅうを食べてしまった。
一連の報道で大連立は外部から持ち込まれたものであることがわかった。仕掛人は渡辺恒雄氏。読売新聞社会長で主筆でもある。福田政権樹立にも一役買ったもいわれる渡辺氏は、8月16日の読売新聞に、社説「大連立 民主党も『政権責任』を分担せよ」を書き、8月21日、22日に鳩山由紀夫幹事長、小沢一郎民主党代表に相次いで連立を持ちかけ断られた。その後、自民党実力者に「自民、民主大連立、憲法改正、社会保障改革、中選挙区制の復帰」を説き今回の大連立に至ったとされる。

しかし、自民党党内にも大連立のコンセンサスができていたわけではなかった。2日の会談を前にして町村信孝官房長官が党内の回ったが、連立賛成は二階俊博総務会長1人だけ、山崎拓前副総裁、谷垣禎一政調会長、津島雄二元厚相、伊吹幹事長らほとんどの領袖が反対した。伊吹文明幹事長は記者会見で大連立を批判、会見前に福田首相に「大連立は断れ」とクギを刺すなどの行動も報じられている。参院選挙後大連立賛成を表明していた山崎前副総裁は、渡辺恒雄氏に反対を表明し激怒されたといわれる。

公明党との関係にも影響が大きい。30日の党首会談に先立ち、自民党の伊吹幹事長は公明党の北側一雄幹事長に「国益と特措法案に限って小沢氏と話す」と説明した。おそらくその前に開かれた臨時役員会で確認した「特措法成立と引き換えの解散・総選挙は受けない。大連立を持ちかけられても乗らない」も話しただろう。
公明党にしてみれば、もし大連立が成立すれば自民党は議席数の多い民主党に顔を向け、公明党の存在意義が薄れてしまう。危機感は、7日の太田代表による中選挙区制の復活の談話にもそれがあらわれている。自民党も自公同盟の再確認をするなど結束強化を表明しているが、小沢党首のいう「自民と公明の関係にくさびを打ち込む」結果になった。
自民党にとってのマイナスは、明らかになった内閣をあやつる影の存在と与党内で生じた猜疑心である。

民主党にとって浮かぶ瀬は

たしかに、民主党にとって衆議院総選挙は厳しい。
与党自民党は、前回2005年の郵政選挙で小選挙区219議席、比例区77議席、合計296議席を確保し、公明党は小選挙区8議席、比例区23議席、合計31議席をとった。与党の合計は327議席と圧倒的多数を超えている。対する民主党は、小選挙区52議席、比例区61議席の合計113議席である。
衆議院の定数は480議席だから、民主党は、現在の議席にあと128議席上乗せしなければ過半数の241議席にならない。安定多数は252議席をめざすならあと139議席必要だ。いずれにしろ今の倍以上の議席にしなければならない。

今の議席配分は小泉人気によるバブルが含まれているだろうが、それでも自民党と民主党の得票率は小選挙区で11ポイント、比例区で7ポイントの差である。公明党の得票率は小選挙区1.4%、比例区13.2%だ。選挙協力により小選挙区で公明党支援者が自民党に投票したのなら、公明党支援者を除いた自民党の小選挙区の得票率は36%になり民主党と拮抗する。
自民党と民主党の得票率の差が10%前後の小選挙区が40区あるが、小沢党首は「200議席まではいけるだろうが、その先が難しい」と認めている。公明党との選挙協力で具体的な新しい政治体制への期待感がでなければ、民主党に勝機は生まれない。

      総務省選挙関連資料:衆議院議員総選挙より

民主党は必死になって混乱で生じたマイナス要素を打ち消そうとし、党分裂をギリギリのところで踏みとどまることができた。しかし、自民党関係者によれば「支持率は10%程度落ちるだろう」といわれるほど国民に与えたマイナスイメージは大きく、衆議院の解散は難しくなったという。
自民党が新テロ特措法をだしたとき、民主党は首相への問責決議案を出しにくくなった。問責決議案がでれば福田首相は衆議院を解散し総選挙になる。だが、大連立騒動により参議院選のときのような国民の支持は期待できないからだ。

民主党のトップは10日に会合を開き、衆議院総選の選挙対策本部を設置する日程を決めた。そしてイラク復興支援特別措置法廃止法案を優先させるなど正攻法の対決姿勢を確認した。その結果新たな動きがおき、局面がいきなり変わる可能性が出てきた。
民主党は正念場でいよいよ真剣に考えはじめたようだ。

[毒まんじゅうを作る怪人の「大連立を画策した筋書き」に続く]

2007年11月4日

制作者、広告主が自ら配信する時代

販路は人に頼らない

この夏まで、AppleのiTunes Storeで売られていた米NBC Universalのテレビ番組が、9月1日から姿を消した。
契約更新で NBC側が従来の2倍以上の4.99ドルの販売価格を提示、結局価格交渉は合意されず契約が打ち切られたらしい。iTunes Storeは、ABCやCBS、FOXなどそのほかの局とは従来通りの販売価格1.99ドルの契約をすませているが、NBCの番組は iTunesで販売されるテレビ番組の30%にあたり、人気番組ベスト10の中に3つ入るほど目玉商品が多かった。

NBCは自社コンテンツを9月10日からAmazon「Unbox」で配信すると発表。「HEROES/ヒーローズ」、Chuck、 Journeyman、Life、30 Rock、新シリーズのバイオニックウーマンのパイロット版がAmazon「Unbox」のユーザに無料公開される。テレビで放映された番組は放映翌日から利用可能。値段は1作品1.99ドルでiTunesと同じ、さらにフルシーズンのパックなら30%引きになる。
また、NBCは10月22日、YouTubeから宣伝ビデオを削除したことを明らかにした。
YouTubeとは2006年6月に提携しNBCの公式チャンネルを開設してドラマや「Saturday Night Live」「The Tonight Show」などの看板番組の予告や宣伝ビデオを配信し、逆にYouTubeに投稿された動画を「The Office」の中で紹介するなど相互宣伝のモデルといわれていた。

NBC UniversalがiTunes StoreやYouTubeとの契約を必要としなくなったのは、News Corpと動画サイトを立ち上げ、自らコンテンツ配信を進めようとしていることがある。
新サイトHuluは、「YouTube対抗」サイトといわれている。

Huluは、2007年10月29日オンラインビデオサービスのベータ版を公開し会員を集めはじめた。
Fox ネットワーク、MGM、Sonyピクチャーとも提携し、これにより NBC/Universal、FOX、MGM、Sony Pictures Televisionのハリウッド4大スタジオのコンテンツを配信可能にした。さらに、BNET、Bravo、CNET、Comedy Time、E! Entertainment Television、Ford Models、Fox Atomic、Fox Reality、FX Networks、FUEL TV、G4、Golf Channel、IGN、Movieola、National Geographic、Oxygen、SPEED、Sundance Channel、Sci Fi Network、The Fight Network、The Style Network、X17 Online、USA Network、Versusなどのケーブルテレビに配信の話をつけている。
Huluはこれらの動画を、AOL、Comcast、MSN、MySpace、Yahoo!などの配信パートナーを通して配信する予定である。cf. Investor's Business Daily

NBCは、テレビ放送だけでなくインターネットに於いても自社の番組、映画を自社で配信する意思を固めたのである。しかも、その資金力と影響力を駆使して、新興のベンチャーではできない大規模な立ち上げのために、ハリウッドをはじめ2つのネットワーク、CATVが蓄えたスポーツやドキュメンタリー番組などにいたるまで、とことんコンテンツを網羅する意思を持っている。

Huluは、インターネットビジネスで一般的だった「小さく初めて大きく育てる」モデルに対し、真正面から「大きく初めて圧倒的に」戦略をぶつけてきた。従来型のビジネス文化を持った企業から生まれた Huluがインターネットで成功すれば、豊富な資金を持つ大企業が同じ手法で参入する道を拓くことになるだろう。

「成功する可能性は低い」と見ているアナリストの意見もあるが、ベンチャー企業の最初のハードルである資金と人材をすでに持っている大企業がどのようにビジネスを進めるか、インターネットで先行し展開している YouTubeVeoh Videoなど、ベンチャーの活気を持って前進している企業はどう対処するか、ユーザはどう判断し動くか、しばらく眼が離せない。


自社で広告配信する時代

NBCはテレビ局なのでインターネットへの進出もチャンネルを増やす行動とみればもっともである。
しかし、広告主自らが直接宣伝を行おうとしている例がある。
バドワイザーを製造する米国最大の醸造メーカーのアンホイザー‐ブッシュが始めた配信会社Bud.TVだ。

アンホイザー・ブッシュはバドワーザーを売っているが、ビール離れが特に最大顧客の若者で進みはじめている。テレビCMは、Tivoの普及で録画された番組のCMが飛ばされてしまい、スポーツの生中継以外はCMの効果が薄くなっているといわれている。テレビを見る時間を減らしてインターネットを見る傾向が強まり、しかもアンホイザー‐ブッシュの最大顧客である21歳から34歳の若者でその動きが顕著になっている。そしてその若者の多くがYouTubeを見ているのである。
そこでアンホイザー‐ブッシュは、インターネットで自ら宣伝を行おうと考えたのだ。

インターネットを使った有名な宣伝として、ユニリーバ/Unileverが行った男性化粧品LynxのバイラルCM、The Lynx Effect,Lynx Jetが挙げられる。ユニリーバは、インパクトはあるがテレビでは流せそうもない少し過激なCMを作りYouTubeで流したのだ。このCMは期待通りの効果をもたらし、口コミで広がり多くのサイトで紹介され、一時期はYouTubeを見るたび必ず眼に入るほどだった。

広告主自身がコンテントプロバイダーになるこれらの手法は、ブランデッド・エンターテインメントとして注目されている。従来のブランデッド・エンターテインメントは、映画やテレビ番組の中で商品を使って行う宣伝(プロダクトプレースメント)として行われており、「ミスター&ミセス スミス/Mr. & Mrs. Smith」のサブゼロの冷蔵庫、プラダを着た悪魔/The Devil Wears Pradaのスターバックス、iMac、「トランスポーター2/Transporter 2」のAudi A8 W12 Quattro、「プリティブライド/Runaway Bride」のFedEXなどがそれである。日本では、「暴れん坊ママ」、「モップガール」、「ハタチの恋人」など、テレビドラマに登場するDocomoの携帯電話がそれにあたる。
一方、これを逆手に取って茶化した「トゥールーマン・ショー/The Truman Show、」「リターン・オブ・ザ・キラートマト/Return of the Killer Tomatoes! 」などもある。
広義のブランデッド・エンターテインメントには、企業の名前を冠したゴルフ大会やマラソンなどのオフィシャルサポートなどもあるが、インターネットを使ったブランデッド・エンターテインメントは今までのものとは違い、極めて能動的なものである。

アンホイザー‐ブッシュ/バドワイザーのターゲットである若い男性は、Harris Interactive調査結果にあるように、テレビの視聴時間を減らしインターネットに接する時間を増やし、投稿された新鮮で面白い動画を探して視聴している。そして彼らのうち、18歳から24歳の76%、25歳から34歳の53%、35歳から49歳の53%がYouTubeを利用しているのである。
YouTubeはセコイアキャピタル/Sequoia Capitalから350万ドルの投資を受けてスタートした。一方、アンホイザー・ブッシュは年間9億1940万ドルの広告費を使っている。多額の広告費を広告代理店と放送局につぎ込んでいるが、到達率はわかっても肝心の購買行動を起こすための効果がよくわからない。

「ターゲットはテレビを離れ、YouTubeに行っちゃったじゃないか」
「たかだか数百万ドルで作れる動画サイトを、アンホイザー・ブッシュが作れないはずがない」
「制作会社を作り配信会社を作っても年間広告費のほんの一部だ」
「えーい、それなら自分でやろうじゃないか!」
と考えたのがBud.TV設立の発端のようだ。

2007年11月3日

テレビの暗黒面と2兆円の市場

テレビが信用できない

2007年1月、視聴率15%前後、ときには20%近くも取っていた「発掘!あるある大事典2」(フジテレビ/関西テレビ)の「納豆ダイエット」でねつ造疑惑が発覚した。

スクープした週刊朝日によると、ダイエット効果の発見者として番組に登場した「テンプル大アーサー・ショーツ教授」は存在せず、実際の研究はワシントン大学のシュワルツ教授のグループが行っていた。取材され番組に登場したシュワルツ教授だが、「そんなことはいっていない。やっていない」と日本語訳されたテロップの内容を否定。そもそもグループのポリアミンの研究は、65歳以上の人の腹部に関するものだが番組で示されるのは顔写真。しかも教授は番組に協力していない、写真も提供していないなど疑惑が相次ぎ、取材記者によると、3〜4日の取材で全部ばれるほどの情けないねつ造で、叩くとホコリがでるどころか、中身がなくてホコリだけの状態だったそうである。

当初、言い逃れでかわそうとした関西テレビだが、取材が進むにつれ「レタス快眠」、米国で大ブーム「味噌汁ダイエット」、「ワサビで10才若返る!」、レモンの「正月太り解消? 食べても太らない新理論」、二重あご解消の「10日間で変わる!顔ヤセの科学」、「小豆あんこで頭が活性化」などで次々疑惑が浮かびあがる。
そして最終的に「外部識者による調査委員会」から10件のねつ造と、6件の灰色番組が報告され、単独スポンサーだった民放で1,2を争う大スポンサーの花王は番組から降り、その後、関西テレビは日本民間放送連盟から除名処分となった。

しかし、テレビ業界の騒動はこれで終わらず、さらにつぎつぎと問題が報道される。
不二家報道では「みのもんたの朝ズバッ!」(TBS)が、元社員の事実と異なる発言を裏付けを取らず放送し、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会から問題を指摘され、さらに総務省から厳重注意を受けた。ついで情報番組「ピンポン!」(TBS)が、関東アマチュア選手権で試合中の石川遼選手の声を拾うためにマイクを付けようとしたり、同じ試合で「イブニング5」(TBS)がコース上空にヘリを試合中に無断で飛ばしたり問題が絶えなかった。

過去の「教えて!ウルトラ実験隊」(テレビ東京)のねつ造事件、みのもんたの「愛する二人 別れる二人」(フジ)のやらせ発覚による番組打ち切りなどは、業界の警鐘にはならなかったようだ。結局、不二家報道でTBSは不二家側への明確な謝罪をせず、他人は責めるが自分に甘いテレビ局の往生際の悪い体質を視聴者に露呈してしまった。

和歌山カレー事件、秋田小1殺害事件、朝青龍問題など、テレビ的に価値を見いだした事件を数週間以上にわたって連日報道する姿は、事件にたかって喰えるだけ食いつくし、次の事件が起きればそちらに大挙して飛びつくネットいなごのイメージが重なる。視聴率アップのためなら世間の常識など無視し傲慢に押し進めるその姿勢は、とにかく商品であるCM枠を売ろうというどん欲な姿である。
また、結論を先に持ち一方的な決めつけで煽り裁こうする報道は、見ていて気持ちの良いものではなく、繰り返される偏執ぶりは信頼性を疑わせ、テレビ自身の価値を自ら貶めることになっている。

テレビ局の稼ぎかた

テレビ局は、放送電波を確保し、放送設備を整え、放映する番組を用意することからビジネスを始めた。
黎明期は「シャボン玉ホリデー」、「夢で合いましょう」、「お笑い三人組」、「ジェスチャー」、「ごろんぼ波止場」などのバラエティー番組だけでなく、「事件記者」、「バス通り裏」などのドラマも生放送されていた。「てなもんや三度笠」、「とんま天狗」などのような公開生放送も結構多かった。「ジャガーの眼」、「少年ジェット」などの野外ロケ番組はフィルムで録画されたが画像は荒く、14インチ程度の白黒テレビで見ると現在の YuoTubeよりも不鮮明だった。しかし皆、新しい娯楽に眼を輝かして見入ったものだ。

新聞が紙面のスペースを広告に当てて販売するように、テレビ局は放映する番組の間に入れる広告の時間を売って収入を得ている。
小さな箱の中で動くテレビ番組は、人々の注目を集め流行を作り、番組が人目を引き話題になるにつれ、テレビによる宣伝は視聴者の購買行動に効果があると評判になった。しかし、時間は有限であるうえテレビCMを出そうという会社が増えてもテレビ局の数は増えず、需要と供給のバランスによりCM枠は売り手市場になり、テレビ業界はまたたく間に強固な帝国を築くことになった。
商品である広告枠は次第に高額になり、テレビ総広告費はこの20年で約2倍の2兆円を超えるに至っている。

平成19年度3月期の決算から、各社の売上高、経常利益を比較してみよう。

フジテレビはお台場事業、TBSは赤坂再開発の収入が含まれている。
  参照:フジテレビ日本テレビTBSテレビ朝日讀賣テレビ松下電器産業

番組制作に、テレビ局 -> 下請け -> 孫請けの構造があるとしても、製造業や一般のサービス業とは大きくプロフィットの形態が異なり、抜群の利益率を得ているのがテレビ業界といえる。そのテレビ業界に2兆円以上の金額をテレビ広告費として払い支えているのが広告主である。
日本の広告主はなかなか鷹揚で、人の良い大店の旦那衆のようなところがある。しかしコストパフォーマンスに厳しい米国の広告主の中に新しい広告の潮流が生まれはじめた。
トリガーとなっているのがインターネットである。

2007年10月28日

テレビ離れとメディアの盛衰

変わるメディアの影響力

2006年、マスコミ四媒体広告といわれる、テレビ、新聞、雑誌、ラジオの広告費はそろって2年連続で前年実績を下回った。
その中でインターネット広告費は30%近く伸び、ラジオの広告費の2倍以上の3630億円になった。
インターネット広告の国内市場は、1996年16億円、1997年60億円、1998年114億円、2000年241億円、2001年735億円、2002年845億円、2003年1183億円、2004年1814億円、2005年2808億円と急激に伸びてきた。2004年にはラジオの広告費を超え、2006年には雑誌の広告費に近づいている。(参考 電通 日本の広告費)



メディアが多様化するにつれ、メディアの影響力が変わってきている。
インプレスの「インターネット白書2007」でも、ブロードバンド化の普及とテレビ離れが関連していると指摘されている。2005年に広告業界、テレビ業界で大変な反響を呼んだ、野村総研のレポート「企業の広告・宣伝手法は、マスメディアから個別対応のITメディアへ 」でもインターネットとテレビ離れの関連が指摘されていた。
前者では、テレビの視聴が減ったと答えた人の割合が、02年には22.3%だったが、04年は41.2%、05年38.9%、06年41.3%と高くなり、これがADSL、光回線の普及と比例していること、後者では、インターネットの利用時間が増えた人が64%、マスメディア4媒体の利用時間が減った人が増えた人の割合の2〜3倍に上ったと指摘し、今後のインターネットの高速化と情報量の増加によりインターネットの利用時間が増え、テレビとの接触時間や影響力まますます低下するだろうとしている。
誰でも1日は24時間で、小遣いを携帯電話につぎ込んだのでカラオケが衰退したと言われている。これと同じことがメディアでも起きはじめているのだ。

動画はテレビだけではない

動画は見られているが、TVだけで見るわけではなくなってきた。
米国のテレビ業界がYouTubeを注目しているのは、テレビが最もターゲットにしたい若者層を引きつけているからだ。そして彼らがYouTubeを見るためにテレビを見る時間を減らしていることにある。

Harris Interactiveの、18歳以上の2309人を対象にした調査によると、
  成人の42%がYouTubeでビデオを視聴し、14%は煩雑にサイトを訪れている。
  YouTubeのユーザの66%は、ほかのことを犠牲にしてYouTubeにアクセスしている。
 YuoTubeを訪れるようになった結果、
  他のサイトを見るのを減らしたのが36%、
  テレビを見る時間を減らしたが32%
と答え、さらに、
  メールのチェックやSNSへのアクセスを減らしたが20%、
  仕事や宿題を減らしたが19%、
  ゲームを減らしたが15%、
  DVD視聴を減らしたが12%、
  そのほか友人や家族と過ごす時間を減らしたが12%
という回答である。

テレビとテレビ広告業界が大きな問題として捉えているのは、テレビが一番広告の対象としたい
  18歳から24歳の男性の76%以上がYouTubeを見ていて、
  そのうちの41%が常連である
ということだ。

しかし、同時にこの調査では、YouTubeをよく利用するユーザの73%が、動画の前に広告が流されるようになれば、TouTubeを見る回数を、かなり減らす(31%)、多少減らす(42%)という回答をしている。
これはTouTubeにとっても頭の痛い問題になりそうである。

日本でも、好きなときに好きな動画を見られるオンデマンド型の YouTubeやニコニコ動画を見る時間が急速に増えている。年代によっては昨年の5倍以上にもなっているようだ。
さらにアクトビラのようなオンデマンドサービスが次々と増えている。

2007年10月27日

次世代ディスクは がんじ絡め?

ゲームとDVDと次世代ディスク

ビデオゲームは、ファイナルファンタジーのように、あたれば本数がでて本数がでれば儲かる仕組みだ。ゲームは映像を精緻にすればするほど容量が必要になるが、精緻=売り上げアップとなるわけではなく、面白くなければ売れないところがつらい。1本に3億ドルの制作費をかけても元をとるハリウッド映画まではいかないが、宣伝費だけで6億円などのゲームもある。制作費をつぎ込む構造やメディアという入れ物ではなく、コンテンツを売る商売だというところは映画業界と同じが、こちらは単品あたりの出荷本数が全然違う。
WiiはDVDだが、すでにプレイステーション3はブルーレイ・ディスクを、マイクロソフトはXbox 360にHD DVDを使っている。オープニングムービーに数億円をかけたゲームもあるが、最近は開発費用が膨らんでキツクなり見た目だけに費用をかけられないのがつらいようだ。
しかしゲームの容量は増える方向にある。ゲーム機には他社との互換性は必要なく、メディアのフォーマットは自社だけで決定できる。ゲームはプログラムだからゲーム機の仕様が変われば、使えないゲームが出てもかまわない。ユーザも欲しいのはコンテンツで入れ物にはこだわらない。しかもスケールメリットがあるからメディアを変えてもコストがそれほど変わるわけではない。
世代交代に合わせ DVDから次世代ディスクに流れるのは当然の成り行きだ。

HDDレコーダと次世代ディスク

動画やデータを保存するなら、メディアの容量は多いほうが好まれる。
ため込む動画の量が増え、今の5倍、10倍になれば次世代ディスクの出番になるだろう。
頭に浮かぶのは、HDDレコーダーの録画をビデオテープ代わりに再録画する用途だ。これなら規格はなんであれ、とにかく容量が大きければ録画が楽になる。
だが、地デジはコピーワンスが極めて評判が悪く、コピー9回+1にするかどうかもめている。
これを検討しているのは、総務大臣指定、電波有効利用促進センター/指定周波数変更対策機関の電波産業会の規格会議だが、私的録音録画補償金制度(著作権分科会私的録音録画小委員会/文部科学省)も絡んでいるし、いっそコピー禁止にすべきという意見もあれば、コピーしてくれなきゃ困るという意見もある。
困るのは規格会議がもたもたして仕様を決められないと、あとで決まる仕様次第で先に買った機器は使い物にならなくなることだ。役にたたなくなる機器を買うのは誰しも嫌であり、購買意欲をそぐ一因になっている。


HDDの大容量化が進み、HDDレコーダーは、1TBの容量を持つものもでている。
HDDレコーダーは、米国では録画しても見たら消す使い方、日本では録画を保存する使い方が主流だという。1TBの容量をいっぱいまで使えば地デジを100時間録画できるが、ここまで溜める人は稀だろうから、ある程度録画をためてからDVDに移す使い方が多くなる。保存のためならメディアの容量は大きい方がよいが、欲しいHDDレコーダの機能と利用できるディスクの種類が異なれば悩みがでる。悩んだあげく購入しないとなれば製品が売れない。しかも、ハズレの規格の次世代ディスクを選べば、後々再生できなくなる危険もある。せっかくためた映像を見るための機械がなくなっては何にもならない。悩んでぐずぐずしているうちに、リソースは手元なくてもいいと割り切る習慣の米国型になりはしないだろうか。

もたついているものがもう一つある

次世代ディスクは、AACSと呼ばれる著作権保護技術の対象になっている。
AACS(Advanced Access Content System)はコピーをさせない技術だけでなく、運用規定(Compliance Rules)の仕様も策定している。策定しているのは、ワーナーブラザーズ、ディズニー、松下電器産業、ソニー、東芝、Microsoft、Intel、IBMの8社が作った業界団体、AACSLA(Advanced Access Content System Licensing Administrator)だ。
注目すべきは、AACSの対象が次世代ディスクだけでなく、それ以外のメディアや記憶装置、デジタル放送やインターネットまでと広いことだ。その中に、例えばS-VHSやコンポジット端子、D端子などのアナログ端子向けに、DVDや次世代DVD、デジタル放送などの映像出力をつなげさせないというものがある。

2011年は、地上アナログ波のTV(SDTV)が止まり、地上デジタル放送(HDTV)に完全移行する年だが、AACSLAの策定によると、2011年1月1日以後に製造するプレーヤーやテレビなどの映像出力を持つすべての機器は、SDTV(今のアナログTV映像)向けの映像出力はかまわないが、HDTV(ハイビジョン映像)をアナログ端子向けに出してはいけない。さらに2014年以後は、どんな機器でもアナログ端子向けの映像出力を出してはいけないことになっている。参考


つまり、いまのテレビやビデオデッキにデジタル機器からの映像出力をつなげなくなるということだから、「ハイビジョンでなくてもいいや。アナログで取り出して、VHS/SVHSのビデオに保存しておこう」という方法が使えなくなる。
地デジテレビ、次世代ディスクプレーヤー、HDDレコーダーなどすべてのデジタル機器からの出力は、デジタル機器のみで録画するしかなくなるのだ。
もっとも、ACCSLAのCompliance Rulesの承認の話は、2005年の暮れに話題になったが、それ以後表に出てこない。密かに展開しているかそっぽを向かれてしまったか、気になるところである。

ACCSは「たとえアナログでも、コピーは絶対に許さん! 何が何でもコピーは封じるぞ」という姿勢だ。これと先のコピー制限がからむとややこしいことになる。
ユーザはいままで、テレビ番組をビデオテープやHDDレコーダーに自由に録画して再生し、ときにはコピーしてきた。
その行為が「だめだ。録画はだめ。コピーはもっとだめ!ぜったいだめ!」といって禁止されると、ずいぶん自由を奪われるように感じる。
5年ほど前、レコード会社の多くがコピー禁止のCCCD、レーベルゲートCDを導入したが、ユーザがそっぽを向いた結果多くの会社がCCCDの利用中止した。現在も続けているのは大手ではEMIミュージック・ジャパンビクターなど少数になっている。


理由が論理的で正しいものであっても、納得して受け入れるかどうかは心証が大きい。
しかし一方的な論理展開と押しつけのうえ、金儲けしたそうな顔ががチラチラ見えれば、意地が生まれるのは必至である。
それは忠臣蔵大石内蔵助の「意地でございます」の時代から変わらない。

2007年10月18日

温故知新 -- VHD vs レーザーディスク戦争

次世代メディアで映画はどうなる

映画やTVドラマ、アニメなどの、セル、レンタルの用途はどうだろう。
日本映像ソフト協会によれば、2007年上半期のビデオソフトの総売上は1483億5800万円。その99.7%がDVDビデオで販売用が65.5%、レンタル用が33.9%だという。販売向けは、1位が洋画、2位がアニメ、3位が邦画・邦楽の順。レンタル向けは、1位が洋画、2位がアニメ、3位は前年比2倍の伸びで邦画を抜いた海外TVドラマ。4位が邦画の順。販売のルートは、1位がレコード店、2位が家電ルートを抜いたインターネットルート、3位が家電ルート、4位がレンタル店ルートだそうだ。

これら映画DVDは、特典メニューがついたものでも8GB以下なので2層レイヤーのDVDに余裕で入る。なかには4.7GB以下のものさえある。メディアの容量上限からサイズを決めた内容と思うが、英語版、日本語版の字幕と音声、監督や出演者の解説がついてもサイズはこの程度である。

映画を借りて見るとき、それがBlu-ray でも HD DVDでも DVDでも入れ物はどうでもいい。映画が見られればいいのだ。
たしかに、大容量の次世代ディスクなら、本編のほかに特典映像をたっぷり入れるスペースができる。
だが、映画DVDを借りる/買うのは、映画自体に興味を持つからである。120分の映画を編集し直して125分の Unrated Editionという別編の映画を作れば買うファンがいる。買う理由は、最初のバージョンの特典映像33分が後者で145分になったことではないのだ。

しかし、すでに業界は動いている。セル販売の「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」を例にとると、DVD、Blu-ray Disc、HD DVDとも本編は約138分、Blu-ray Disc、HD DVD、3枚組DVDには約165分の特典が付いている。価格は 次世代ディスク 4,980円、DVDが1枚組(特典映像なし)2,980円、3枚組が 4,480円である。
本編と特典映像が同じでも、販売側の都合でメディアが変わると価格が変わる。もうしばらくしてDVDの販売が押さえらるようになれば、否応なくどちらかのプレーヤーを買うことを強要されることになる。いまのDVDとプレーヤーで十分満足できる映画が見られるのに、どうしてまた機器を買い換えなければならないんだという声がでるのは当然だ。
だがそんなゴタクを聞いてくれる耳はどこにもなく、DVDは売られなくなり、DVDプレーヤーも手に入らなくなるのだ。

しかも、Blu-Rayが収穫逓増に入れば、HD DVDは次第に姿を消し、ソフトは買えなくなりプレーヤーは役に立たなくなる。HD DVDが主流になれば逆の現象になる。
このような競争は、10年ほど前にもあった。VHDとレーザーディスクの争いだ。

VHDとレーザーディスク

VHDとレーザーディスクは1980年代初めに登場したビデオディスクである。
VHD陣営には、松下電器産業、日本ビクターをはじめ、東芝、日電HE、三菱、三洋、シャープ、ヤマハ、赤井、トリオ、アイワ、クラリオン、山水など15社以上の企業が集まっていたが、対するレーザーディスクはたった1社、パイオニアだけでスタートしたのである。
双方のディスクのコンテンツは、映画、アニメなど、現在のDVDと同じだったが、すべてセル販売でDVDのようなレンタル店での貸し出しは行われなかった。製品も、当時はまだ映画を自宅で見る習慣が根付いていなかったため、映画マニアのための嗜好品の意味合いが強かったといえる。

当初は両陣営のシェアに開きはなかったが、VHDの水平解像度240本に対してレーザーディスクの440本の水平解像度とマニアにとっては気になる画質の差や、レーザーディスク陣営がCD/LDコンパチブルプレイヤーを出したこと、カラオケにレーザーディスクが使われたことなどで、ユーザがレーザーディスクに流れるとともに企業もVHD陣営から次々と離脱し、最後には松下電器産業、日本ビクターまでもがレーザーディスクを発売する事態になった。
その結果、売れなかったとはいえ決して少くない数のVHDのユーザが、プレーヤを買いソフトを買いそろえていたが、VHD陣営の縮小とともにソフトは発売されなくなり、プレーヤが壊れても新しいプレーヤを入手することはできなくなって、次第に利用したくても利用できない状況になっていった。

そしてその後DVDの登場により、レーザーディスクも消えていった。
ワゴンセールでLPやEPレコードと一緒に並ぶレーザーディスク、VHDだが、レコードに手を伸ばすことはあっても、VHDやレーザーディスクはジャケットを見ることもなくホロ苦い気持ちになるだけである。

新しい技術によって新製品が生まれ新たな市場で利益を得るサイクルは、進歩がある限り繰り返される。「計画された陳腐化」は、経済活動の中に盛り込まれているのである。
しかし、意地の張り合いで統一が行われず、どちらかを選べと迫られて消え行く運命の製品を選んでしまった消費者は、運が悪かったとただ諦めるわけにはいかない。

2007年10月15日

オンラインになって消えるもの

技術革新で過去の遺物になるものは

電球、電灯の登場で、人類は有史以来使っていた炎による灯りと別れをつげた。 そのときまで使っていた灯油は、用途をかえエネルギーとして生き残ったが、ランプとランプ屋さんは表舞台から姿を消したのだ。
一方、電気の世界で商いをはじめた松下電器の創始者松下幸之助さんは、1918年ごろ電灯につける二股ソケットを売り出して事業を拡大したのである。

ランプはシンプルな道具だから芯を伸ばし灯油を入れさえすれば使えるが、ちょっと古くなると使えなくなるのがプレーヤー。蓄音機はプレーヤーの仲間でも簡単構造なので直し直しながらでもSPレコードを聴くことができたが、レーザーディスクやVHDはそうはいかない。大概トレイが引っかかり始め、「はい残念でした!」という感じで使えなくなって、せっかく集めた映画は一巻の終わりになる。

逆に機械は元気でも、メディアがなくなって使えなくなるものもある。ベータを駆逐したVHSだが時は残酷で、技術の進歩により次第に店頭から消えつつある。デジタルビデオカメラもテープからディスクにメディアが変わり、DVCの売り場も次第に小さくなっている。テープがなくなれば機械の使い道はなくなる。Zip DiskやPDなどすでに気に留める人もいないだろう。万物流転、盛者必衰なのである。

IT関係で気になるのが、Seagateが今年末までにIDE HDDの供給を止めSATAに専念するという話。SeagateはMaxtorでもあり、赤字の日立も追従するだろうから、めぼしいIDE HDDがなくなる可能性ができてた。2.5インチは対象ではないらしいが、これも時間の問題だろう。SATAが出たときいつかはこうなるとわかっていたが、動いているPCのための対策が必要になってきた。といってもとりあえず買い置きしかできない。

「ブルーレイディスク 対 HD DVD」の勝者は何を得る

祗園精舎の鐘の声が鳴ってもならなくても、争いが消えることはない。
これからの技術として話題の次世代ディスクは、ソニーや松下、日立、三菱、シャープ、Apple、DEll、サムスン、TDK、ディズニー、ユニバーサル、20世紀FOXなどの「光ディスクの最終形」ブルーレイディスク陣営と、東芝とNEC、三洋電機、マイクロソフト、インテル、太陽誘電、リコー、帝人化成、パラマウントなどの、「次世代ディスクのスタンダード」HD DVD陣営の間で火花が散っている。どっちつかず/いいとこ狙いのコウモリ陣営は、ワーナーブラザース、富士通、三菱化学など。さらに、NECはHD DVDの副会長で幹事会員だが、NECエレクトロニクスはBlu-ray Discにも名を連ね、光ピックアップを作っている会計監査で幹事会員の三洋も双方に名前があるというややこしさだ。

サイトから得られる情報は、圧倒的にHD DVDの方が多い。深い内容ではないが消費者がまず最初に知りたい使い方や仕様、何がどう変わるかが明確になっていて、見ていると使ってみたくなるような楽しさがある。
一方Blu-rayのサイトは、ディスクの種類や容量さえわからない。どこにどんな情報があるのかわからない。同じような内容のぼかした書き方ではっきりせず、例えば「入手可能な規格書」も名称だけで規格は書いてない。リンクがあるわけでもない。タイトルが日本語で内容は英語記述というチグハグなページまである。いったい誰に見せるためのサイトなのだろう。

次世代ディスクは、東芝とソニーの間で一時は共通規格が合意されたが結局うまくいかなかった。
このまま2つの規格が進むと、見たい映画のために両方の規格のプレーヤーを揃える必要がでてくる。しかし、1990年代後半に登場したDVDがレンタル屋さんからVHDを追い出しように、いまのDVDも次世代ディスクもいずれそうなる時がくるのだ。
利用者そっちのけの覇権争いが長引き、さらに混沌として需要が喚起されなければ、次次世代製品の登場とオーバーラップする可能性さえある。最近は買い控えが顕著になってきている。強いニーズを持ち暫定商品を買う人はどのくらいいるのだろう。

一方、無為な争いはディスクを作る製造企業にもしわ寄せがでる。
カセットテープ、ビデオテープ、CD、DVDなど、いままでのメディアはほとんど全部普及期前までしかうまみがなかった。開発が終わってしばらくの間は利益がでるが、普及期以降はコスト競走がはじまって稼げない商品になってしまう。いつまでたっても離陸できず、飛び上がったと思ったら在庫の山になるのではやりきれない。今回は、さらにディスク以外にも消費者の選択肢があるのだ。

映画の予告編はビデオオンデマンド

HD DVD Promotion Groupのサイトでは、ハリーポッターやバットマンビギンズ、ワイルドスピードx3が迫力満点。こういうのをオンデマンドでどんどん流してくれれば楽しめそうだ。

実際、映画の予告編はすでにオンデマンドで見ることができる。
例えばトランスフォーマー/Transformersの米国版予告編は2005年の12月からここにあった。封切り前の映画でも、ここのリストにある予告編はオンデマンドで見ることができる。
ボーン・アルティメイタム/The Bourne Ultimatumも米国公開前から3種類の予告編が掲載されている。そこには、普通の動画のほか、480p、720p、1080pの予告編もある。720p以上ならHDTVの規格だから、ハイビジョンのビデオオンデマンドである。
2分20秒ちょっとの ボーン・アルティメイタムだと、ファイルサイズは480pが49MB、720pが86MB、1080pが191MBである。難点は再生スピードにダウンロードがついてこないこと。FTTHを使っても、海を渡る通信回線と先様のサーバーの都合でどこかにボトルネックができればダウンロードのスピードが落ちてしまう。
しかしボトルネックがなくなれば、(たぶん)スイスイHD DVが見られるのだ。

栄華は一瞬、うたかたの夢

次世代ディスクが必要な理由はなんだろう。
一番は、企業が稼げる新商品としての役割だ。しかし、消費者サイドは、「おー、DVDの5(6)倍の容量だ。こっちは10(12)倍もある! 助かるなぁ」と喜ぶのだろうか。
いままでは、パソコンの進化にあわせて扱うデータが、テキスト、画像、動画とサイズが大きくなってきたから手持ちのデータを楽にしまえるメディアの大容量化は歓迎された。
で、動画より大きいデータは何だろう。

2007年10月4日

TV局の生き残り方

「アクトビラ」開始後の動きが鈍い


9月にスタートしたアクトビアだが、テイクオフにもたついているように見える。
Googleの「アクトビラ」の検索結果も9月初めには50万件を超えていたのに10月になったら14万件に減ってしまった。
表示されるリストも関係企業のサイト以外は、主に日経、インプレスだけ。既存のTV、新聞などのメディアからは無視というか封殺された感がある。 家電業界連合の起死回生イベントと思ったのにもう一つ盛り上がらないのは、マーケティングに問題があるのだろうか。それともTV業界と「そんなに急がずボチボチやりますから」などの裏約束でもあるのだろうか。

AppleがiPod/iTunesのPodCastを始めたとき、みんなが驚いたのはjobsが「デスパレートな妻たち」や「LOST」をアップロードさせたことだ。いまでは有名どころのドラマや映画はほとんどPodcastされ、連携しているネットワークも、ABC、CBS、NBC、CNN、FOXをはじめ、MTVまで何でもありだ。これなら通勤電車の中で最新ドラマやニュースをiPodで見る風景は当然のなりゆきといえる。当たり障りのない独自コンテンツや、価格の安いマイナーな映画だけでスタートしたらPodCastも今ごろは見向きもされなかっただろう。
1ヶ月過ぎたアクトビラのサイトで紹介されているコンテンツは 40本ほど。映画は2本しかない。

そうこうしているうちに、ダウンロードしてDVDに録画できる配信サービス「DVD Burning」をKDDIがスタートさせた。ここの布陣がすごい。ワーナー・ブラザース、IVC、ポニーキャニオン、ジェネオン、GDH、ホリプロ、吉本興業など約60社が参加し、2007年度末には5000本のコンテンツを用意するというもの。現在は、グラビアアイドル物、アニメ物、紀行物が多いが映画も250本以上ある。料金は「1作品500円から」でアクトビラと似ているが、マーケットもアクトビラと重なる。
新作がDVDになったら同時に配信もあるので、まさにオンライン・レンタル屋さん....手元にDVD-RWとして残るが....である。アダルト物は会員のみというのもレンタル屋さんのアダルトコーナーとイメージが似ている。
未発売作品や廃盤なども配信対象なので、街では手に入れにくいマイナーな映画も期待できそうだ。となれば、ロングテールを売り物にして全部取りになったAmazonやiTunesの DVDコンテンツ版というビジネスモデルだろうか。
さらに10月には、Yahoo! Japanが「CEATEC Japan 2006」で動画やニュースのテレビ向け情報配信サービス「Yahoo! Digital Home Engine」を出展した。

いずれにしろ最初にマーケットを確保したものが一人勝ちするのがこの業界の常だ。ハードウェア(TV)をベースにした地道な拡販と操作性の良さが功を奏すか、多少のスキルは必要だが「圧倒的な」を狙った一気の立ち上げが押さえるか、DVDコンテンツ・オンライン販売のシェア争いが、スタートの号砲と共に始まった感がある。

TV局も手をこまねいているわけではない。


インフラストラクチャが整ったことで、動画関係のサービスが実用に耐えるようになり、新しい動きが次々と生まれている。
しかし、TVのゴールデンタイムの総世帯視聴率は、これらのサービスの影響がでる前から、2001年12.5%、2004年12.1%、2007年11.6%と年々低下しているようだ。逆に、ゴールデンタイムにwebサイトを見る利用者の割合は上昇している。(日本広告主協会 Web広告研究会資料)

表立って騒ぎはしないが、もちろん年々減っていく視聴時間をただ黙って眺めているTV帝国ではない。
日本テレビは、2005年から「第2日本テレビ」を、TBSは「動画6.1チャンネル」を、テレビ朝日は「テレ朝bb」、フジ系列は、「fnn 動画ニュース」など、各キー局は次々と動画サイトを開いている。
もっとも、テレ朝bbはページを開けば自然に動画が流れるが、動画6.1チャンネルとfnn 動画ニュースは別窓でWindows Media Player が動き出す。第2日本テレビではブラウザが対応していないと見られない。CNNFOXのように、ストレスなく視聴できるのは今のところテレ朝bbだけのようだ。

しかしどの局にしろPCの画面に小さく表示されるだけで、あの巨大なTV画面にドーンと映し出される迫力はまるでない。
PC経由のDVDコンテンツはともかく、TV画面にニュースをVOD/HDスペックでオンライン配信できる能力があるのは、今時点でアクトビラだけだ。
地上デジタルはアナログ放送より難視聴地域が増えるため、地デジをオンラインで流す話がある。こうなればしめたもの。FTTHさえつながれば、リモコンにある「acTVila」ボタンを押すだけでアクトビラが映し出されるのだ。TVの電源を入れたとたん「アクトビラ・ニュース・チャンネル」が流れるようになったらどうする、TV帝国。デススターはないのか。

2007年8月13日

「アクトビラ」の始動とテレビ局凋落の始まり 3  TV 2.0

「7時のニュースは7時に見なくてもいい」


「TV局が番組を作って放映し、それを視聴者が見る」という形がTV放映開始以来続き、これがTVの最終型だと思われてきた。
しかし、コンテンツを充実させVODを行うアクトビラは、これを過去の物にする。

今までなら、8時に帰宅したのでは録画してない限り7時のニュースは見られない。
日曜日に起きた中越沖地震はニュース番組が多い日曜日だったのでLive報道を見ることができた。しかし通常番組枠の月曜日からは、時代劇や探偵物の再放送、テレホンショッピングなどが流され、地震の情報は見たくてもニュース番組の時間まで待つしかなかった。

VODではこれが根本的に変わる。
8時に帰宅しニュースが見たかったら、VODのニュースチャンネル(番組)を選べば、ニュース番組を始めの部分から見ることができる。途中で席を外すなら番組を一時停止にすればいい。
事件の続報を見たければ、次々アップロードされる関連ニュースを見ればいい。
地方で起きた事件を、地方局またはキー局から派遣されたクルーが取材してキー局が全国に放映する流れでなく、地方局のクルーが取材して編集、それをVODのサーバーにアップロードすれば、世界中の誰でもその瞬間からその番組を見ることができるようなる。

見たい番組を待つ必要はない、放映される時間を気にする必要もない。自分の都合に合わせて見たい番組を見ればよいのだ。途中で席を立つときも、番組を録画する必要はない。自分の都合に合わせて止めておけばよいのだ。
裏番組が何かも気にならない。録画する必要もない。見たい番組の順番を決めてつぎつぎ見ればいいだけのことである。

アクトビラは TV 2.0か


「激走! 5000キロ」(原題 THE GUMBALL RALLY 1976年/米国)が好きでも、DVDがなければレンタル屋は棚に並べてくれない。しかし、デジタル化されてVODのリストにのれば、見たいときにいつでも見ることができる。プレスしてDVDを作りパッケージにする必要は全然ない。これはアマゾンなどのいわゆるロングテールだが、VODでは在庫や物流にかかるコストはさらに少ない。

VODのネックの一つはコンテンツの数だが、アクトビラには次々とコンテンツホルダーが参加を表明している。母体の大手家電メーカーの多くは、映画会社と深い関係を持っていた。NHKには例のアーカイブスがある。2008年度には2,000本を超えるコンテンツを用意するという話も聞くが、多分それ以上の本数になるだろう。インターネットで勝者になるビジネスモデルには、いつも「圧倒的」という言葉がついてまわる。

使い慣れたTVリモコンだけで利用できることもアクトビラの利点である。
ごちゃごちゃしたYahoo!のインデックス画面を見慣れた目に、シンプルなGoogleのトップページはとても新鮮に見えたものだ。今はインターネットのポータルサービスに似たアクトビラのメニュー画面だが、洗練された独自のユーザインターフェイスが現れれば、以後はそれがVODポータルの標準になる可能性さえある。

家電業界には、「TV沢山作ったのに稼いでいるのはTV局ばっかり」の鬱憤があると聞く。さらに「PC + ディスプレイ連合」のPCセントリックによって、TVは居間から追い出されつつある。情報家電ネットワーク化に関する検討会に参画した主要家電メーカーの、居間を取り返すことを悲願としたアクトビラは、これらを一挙に解決できる乾坤一擲のTVセントリック大作戦とみることができる。
最近、NTTはブロードバンド回線をTVに接続するサービスを進めているが、これも流れに沿っている。
「圧倒的」がどこまで進むのか見ていきたい。

準備中:TV局の生き残り方
準備中:多様化する生活の中で生まれる流行

2007年8月11日

「アクトビラ」の始動とテレビ局凋落の始まり 2  生活に合わせたTV

「TVに合わせた生活」から「生活に合わせたTV」


米国では数年前から、インターネットとTVの録画機能を合わせたティーボ(TiVo)の利用で、自分の生活に合わせてTVを見る人々が増えている。TV局が流す番組でなく、ティーボに録画した番組を好きなときに見る生活である。ドラマをまとめてみたり、CMをカットしたり早見することは当たり前で、検索することを「ググる」というように、「今週のER、ティボっといて」のように使われるほど普及が広まっている。

ビデオ・オン・デマンド(VOD)


今までポータルサイトとしての紹介が多かったアクトビラだが、本命はVOD(ビデオ・オン・デマンド)である。VODは、現在の垂れ流し型のTV放映、CATVと異なり、いつでも見たい番組を頭から見ることができるサービスで、アクトビラでは、これをハイビジョン品質で視聴することができる。

VODは、1990年代に現れたが影が薄かった。米国では、1990年代後半に事業として現れたが、協力する映画会社が少なくコンテンツが確保できず失敗に終わった。日本に登場したのは2000年だが、当時のインターネット利用者は37%。当時の回線は、ダイアルアップ55%、ISDN約34%、ブロードバンド約7%(330万人)という環境だったため、ストリーミングに必要な回線容量が足りず有用なサービスとして定着しなかった。しかし、ブロードバンドの普及率は、2003年に利用者の48%(2,655万人)、2006年には65%(5,687万人)になった。(数字は総務省通信利用動向調査より抜粋) 2007年夏には、NTT東日本だけでFTTHの契約数が400万件を超えるなど、VOD向けのインフラストラクチャは急速に充実している。

当初、瞬く間に成長を進めるインターネットビジネスと比べ、製品の製造が必要でアクトビラは展開スピードが遅いことを揶揄されたが、ここにきて2008年度に予定されていたストリーミング放映を半年以上前倒しするなど展開のスピードを早めている。8月9日には290,000件程度だったGoogleの「アクトビラ」の検索結果も、8月13日には343,000件、14日には426,000件に増えた。注目度は以前よりずっと上がっている。

アクトビラは、いままでの「TVに合わせた生活」を「生活に合わせたTV」に変える。ようやくTVが、最近の生活形態に追いついたのである。

参考:8月12日。NHKの朝のニュースの中でインターネットテレビとしてアクトビラが紹介された。
インターネットでハイビジョンが見られるサービスと報じられたが、最初に現れたのは、よくあるポータルサイトと似た画面。しかし、後半の大型TV全画面で流れるハイビジョン画像は迫力があり、僧衣の下の鎧を見させられた感があった。説明に登場した松下電器産業の映像ディスプレイデバイス事業グループのマネージャーは「見たいときに見たいものを」を強調していた。

「アクトビラ」の始動とテレビ局凋落の始まり 1  ハイビジョンVOD

2007年8月8日、「デジタルテレビに映像配信」という見出しで「アクトビラ」のニュースが朝日、読売、毎日、日経など全国紙と地方紙に載った。その2日後、「アクトビラ」に対応した「VIERA(ビエラ)」シリーズの記事が掲載された。8月以前に「アクトビラ」という言葉が記事になったのは3月のこと。じつに4ヶ月以上前のことである。
9月1日からの映像配信サービススタートを前に攻勢をかけ始めた「アクトビラ」とはなんだろう。

「アクトビラ」の生い立ち


2006年2月、松下電器産業、ソニー、シャープ、東芝、日立製作所の家電大手5社が、インターネットにブロードバンド接続したデジタルTV向けのポータルサイトを研究するワーキンググループ「DTVポータル検討ワーキンググループ」(DTP-WG)を発足させることを発表した。ポータルサイトに接続するデジタルTVの仕様を共通化し、普及を促す考えだという。

2006年6月、、松下電器産業、ソニー、シャープ、東芝、日立製作所の家電大手5社とソニーコミュニケーションネットワークが、デジタルテレビ向けポータルサービスを行う会社「テレビポータルサービス」を共同設立すると発表。資本金は10億円で、松下が35%、ソニーコミュニケーションネットワークが25%、ソニー、シャープ、東芝、日立製作所が各々10%ずつ出資する。新会社は、ポータルサービスと対応するデジタルTVの仕様の共通化、映像配信サービス(VOD)や、生活情報サービスを提供する事業者の参加を募る。

2006年10月、テレビポータルサービスは、テレビ向けポータルサービス「アクトビラ」を2007年2月に開始すること、2007年度中にテレビ向けのストリーミングVODを、2007年度にダウンロード蓄積型サービスをめざすこと発表した。

当時の反応は、すでにある Google、Yahoo!などの強力なネットワーク型のポータルサービスに対し、いまさらインターネットTVを作ってどうする、TV用のポータルを作ってどうするといった内容が多かった。

2007年2月、松下電器産業が「アクトビラ」内で、生活情報やカラオケが見られる「Panasonic TV スクエア」を開始。同社のビエラのほか、ソニーのブラビア、日本ビクターのエグゼも、インターネットに接続すればこれらのサービスを利用できるようになった。テレビポータルサービスに参加する大手家電メーカーは、最終的にはデジタルTVの70-80%をアクトビラ対応機種にしたいと意思表示をしたが、「アクトビラ」はネット対応テレビのリモコン操作で見られる新しいポータルサイトという見方が多かった。受動的な視聴形態を前提に、「TVのようなプッシュ型」のサービスとインターネットコンテンツの表示ができる装置と捉えられ、VODについてはあまり話題にならなかった。

2007年3月には、シャープの「AQUOS」の13機種、ソニーの「BRAVIA」に6機種が「アクトビラ」に対応、4月には、松下電器産業の「ビエラ」の10機種が対応になり、日本ビクターの対応機種も含めると、アクトビラ対応製品は66機種となった。
「アクトビラ」に関する報道は、TV、新聞に現れることはなく、もっぱら日経のIT、メディア関係の雑誌の記事に現れる程度。それも、iモードやEZweb、ワンセグやWiiと比較され、TV屋が考えたTVのためのポータルサイトとしてマイナーなイメージのの論調が多く、TV局を超えて映像配信事業を行う映像ポータルとしての記事はなかった。

2007年8月8日。テレビポータルサービスは、動画ストリーミング配信サービス「アクトビラ ビデオ」を9月1日から開始することを発表した。
発表の内容には、映像符号化方式はMPEG-2(アクトビラ ビデオ)とH.264(アクトビラ ビデオ・フル)。ビットレートはMPEG-2が2〜4Mbps、H.264が4〜8Mbpsを予定。9月1日から10月31日まではお試し期間で無料。それ以後は、無料コンテンツと有料コンテンツになる。料金は1本105円から。スタート時に用意するコンテンツは50本。11月1日からは約300本、2008年春までに1,000本をめざすとあった。

そう、インターネットの高速回線を接続するだけで、リモコン操作でいながらにして好きな映画を選び、大画面でDVDよりも綺麗なハイビジョン品質を映像を鑑賞できる環境「アクトビラ」が生まれたのである。